2015年01月30日

ネック折れのお問い合わせについて

先日レスポールのネック折れ修理(http://repairtech.seesaa.net/article/412745398.html)に関して記事をアップした所、ネック折れについてのお問い合わせが沢山入ってきまして、そのメールを読んでおりますと、意外にプレーヤーさんの間で、ネック折れの原因や木部修理に関し、間違った認識を持っていらっしゃる方も少なからずおいでの様です。それらについての回答を含め少し私なりの考えを、記事にしたいと思います。

まず、ネック折れの原因として多いのはギブソン系等のヘッドアングルがついているギターを転倒させてしまった際に起こりやすい破損です。

前回の記事の様に木部繊維が裂けてしまったり、ヘッドが取れてしまう程で有ったり、症状は様々ですが、 「折れたらまず初動としてはどうするか?」と言う事。
よく自力で直そうとして瞬間接着剤だらけにされてしまったギターをなんかを見かけますが、これは殆どの場合NGです。そのプレーヤーさんが別の意味で職業的職人(外科医さんとか大工さんとかETC..)さんであったなら、見た目はともかく接着はできるかもしれませんが。。まずは実績の有るリペアマンに見て貰ってください。

そして折れたら速やかに次の作業をお願いします。

@ヘッドがまだ繋がっている場合。
弦を外します。弦のテンションが掛ったままですと、破損部から侵入した湿気で木部が変形し癖が付きますので、弦の張りっぱなしはダメです。また昨今のギブソンのレギュラーラインのギターやそのコピーモデルはヘッド表面のツキ板に樹脂製のヘッドプレートを使用している事が有り、このプレートに癖がついてしまうと、修復が困難です。又折れた木部が湿気を帯びてしまうと木の膨張で折れた面が修理時に密着しなくなりますので、サランラップなどを巻いて湿気の侵入を防いで頂けるとありがたいです。

Aヘッドが取れてしまった場合
同じく弦を外し、破断面を崩さない様に注意の上サランラップで湿気を遮断して下さい。
また破片は出来る限り集めて同じくラップで包んで下さい。

ネック折れは破損規模にもよりますが、対処が速ければ速い程、綺麗に修復できますので、事故が起きたら可及的速やかにリペアマンの元へ持ち込んで下さい。

次にご質問の中で出てくる事が多いのですが、破損部を接着する事によっておこる音色の変化についてですが、結論から厳密に申し上げますと、音色の変化は起こり得ます。

といいますのも、ネック折れその物を修理する際に多かれ少なかれ接着剤を使用しますし、修理規模によっては、別の補強材を埋め込んでいきます。これは元々の状態を構成していた木部状態や剛性の変化を意味し、ここから導き出される答えは、振動体であるネックの剛性や質量が変われば音質が変化すると言う事です。

逆説的に行けば補強が少ない程、音質の変化は少ないと考えられます。

別の側面で行けば、ネック修理後補強力が強い場合、弦を張った際にヘッド起きの量が変わり、音色が変化する事もあり得ます。

但し、これらは聞き分けられるレベルかどうかはプレーヤーさん次第です。
リペアマンは基本的に破損してからその楽器を触る事が多く、その個体の音色を把握してない事が殆どです。元はこうであっただろうなあと言う所まで修復の努力はしますけれども、どうしても変化の量についてはプレーヤーさんの感覚に委ねられる部分となります。正しい修理がおこなわれていれば修復歴が有るからと言って音が悪くなる事はありません。

次に接着強度ついてですが、セットネックのエレキギターやアコースティックギターなどは構造上、殆どの部分が接着剤で組み立てられます。正しく接着されていれば自然に分解すると言った事が起こらない事と同様に、ネック折れの修理も基本的な強度は同じく、自然に分解するような状態ではありません。通常はもっと強固に接着修理され、又補強材の兼ね合いもあり、ネックの剛性その物は向上している事が殆どです。

もしもネック折れ部分の木部の接着が剥がれたとなったら、それは正しい接着剤の使い方ではなかったか、正しい修復法ではなかったと考えられます。正しい修理法がなされた機体で、もし再度同じ事故が起きた際は最初の修理部位の接着面ではなく、すぐ近くの別の部位から破断したり、または正反対のヒールから折れたりする事が殆どです。

そう言った所から接着強度については、ご心配いただくよりも、その後、扱いの方を丁寧にして頂ければと思います。

接着剤の使い方については別途記事を書いておりますので、そちらもご参照いただけると幸いです。
グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html

次に、修理内容に関してですが、修復方法は幾通りもありまして、破損状態と補強の具合と予算と仕上がりのバランスによって変わってきます。これは有る程度現物次第ですので、お気軽にご相談下さい。

私共で過去にネック折れの修理を多数担当させて頂きましたが、どの件もハードな使用に耐えられる様、一生懸命知恵や色んな手法を使って直します。修理を行った楽器の中にはプロのミュージシャンがツアーに持って出かけるものも少なくないですが、全く問題なく使えています。

そもそもプロ/アマチュアを問わずお客様としては楽器が折れてしまうと相当ショックな訳で、極力そのショックを和らげて、その楽器をまた弾ける状態に戻すのが私共の仕事です。これはプレーヤーさんがどんな方であれ変わる事のない姿勢です。

と言った様な所で本日はここまで。
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2015年01月22日

BURNYブランド製 レスポールモデルのネック折れ改修

今回は大阪府T様よりご依頼頂きました、BURNYブランド製 レスポールモデルのネック折れ改修作業をご紹介します。
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因みにこのBLOGは掲載順に作業しているのではなく、有る程度資料として書きたいなと思った時に更新するスタイルですので、何年も前に作業した物が記事になっていたりする事が有ります。そんな訳で、この記事は既に施工から1位年以上経ってるのでは無かったかな?と言った所です。

さて今回のBURNYは、老舗ギターメーカー、フェルナンデス社が企画生産するエレキギター&ベースのブランドの一つです。フェルナンデス社内でのブランドの住み分けは、FENDERスタイルのギターをFERNANDES、GIBSON系のギターをBURNYという位置づけでブランドを仕分けてあり、今回のモデルはギブソン系レスポールタイプなのでBURNYと言うブランドがヘッドに入っていました。

これは国内の楽器ブランドホルダーには良くある話なのですが、フェルナンデス社自体は自社工場は持たず、所謂ブランドホルダーとして企画を行い、それを国内外の実生産工場が製作を請け負うと言うスタイルの「商社」が最も業態として表現に適している会社さんですね。実生産工場はOEM契約の内容や条件によって使い分けているかと思われます。

そんな中で、今回の楽器は随分古く恐らく80年代後半に製作された物だろうと想像されます。既にフロントピックアップが無い上、リアは正体不明のPUが取り付けられており、電装系も誠にパンクな仕上がりですね。またヘッドアングルの付け根にネック折れが見受けられました。これはオーナーさんも随分前から気が付いていたのですが、使わない楽器のだった為、ひびが入ってから随分の時間が過ぎてしまっていた様です。

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写真では解り難いですが、ヘッドを手で押すと口が開く程度には木部にクラックが入っています。その為今回は補強を入れるプランにて修理を行います。

今回のネック折れ修理の手順は以下の通りでプランニングを行いました。
@一旦ひびが入っている割れた傷口に接着剤を流し込み圧着
A補強木材挿入用スロットをトリマーで切削加工を行う
B補強材を作成
C補強材スロットに接着
D補強材を成型後、部分塗装にて補強材を目隠し

さて早速ですが、順番に行きましょう。
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先ずは注射器やヘラ等を使い、一番破損の深い所まで接着剤を送り込み、木材同士の毛細管現象などの自然物理現象にも頼って作業を進めていきます。今回使用したのはタイトボンドですね。接着剤については過去に下記のリンクで詳しい内容を記載した事が有るので、合わせてご参照頂けると幸いです。

グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html


ここまでの作業が終わったら、次はスロット掘り作業ですね。
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こんな感じでヘッドの羽子板側角度に合わせて木部切削用電動工具のトリマーを使ってスロットを掘ります。これは見た目より大変危険な作業ですので、自分でネック折れを直そうと挑戦するのは出来るだけ避けた方が良いかと思います。指を飛ばしてギターが弾けなくなったら元も子もないですしね。

因みに同様の修理については過去にも記事を書いてまして、
S氏LPネック折れ修理(オービルbyギブソン)
http://repairtech.seesaa.net/article/96954630.html
こちらの記事も合わせてご参照いただけると幸いです。切削の理屈や補強の話など、技術的にベーシックな事を記載しております。

次に出来あがったスロットに対して埋める補強材を作成し、それを埋めていきます。
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これは、ローズウッドとマホガニーの2プライ構造になってまして、マホガニーのみの補強材より強度を上げる為、この様な工作を行いました。ネックに掘られたスロットよりより若干、、コピー紙一枚分位、厚めに作成し、木殺しを行ってからスロットに接着します。今回接着に使用したのは上記と同じタイトボンドです。

木殺しとは何かと言う話ですが、まあちょっとした雑学的に少し記載しておきます。

木殺し(きごろし)は木工技術の一種で、釘を使わずに建てる寺社仏閣など、柱に組み木細工を施す事をホゾ組みと言うのですが、仮組を行う際、塩梅を見やすい様に、ホゾを玄翁等で叩き、木の繊維を圧縮して組みやすくしておきます。その後組んだ後、建築物で有れば時間が経つと湿度等で木の復元力によってホゾが膨らみ、接合力が強化される効果が有ります。

この様に木の繊維を断たない様に圧縮する事を木殺しと呼び、大工さんの世界では普通に使われる建築用語ですね。

因みに今回の場合、叩いた所は最終的にタイトボンドなどの水分を含むと膨らんで元に戻ります。その力を利用して、内部から膨張という現象を発生させ、スロットと補強材を密着させる訳です。この木殺しの作業をタイトにすればするほど乾燥後の木部強度が上がります。ここでポイントになるのは、一体どれ位木殺しのマージンを取るかと言った所で、その目安が私の感覚ではコピー紙一枚分と表現しました。あまりに木殺しのマージンを取り過ぎた上で、木殺し後の寸法を合わせると(つまり潰す量が多い)、今度はホゾの復元力で元のネックを割ってしまうなんて事も有りますので、程々の良い塩梅って言う感覚が必要な作業になります。

木材の復元力がどういった物か解りやすい動画が有りましたので、参考にリンクを貼っておきます。

<不思議な板と釘はどうやって作成されたのか?>

全然別の話ですがついでに。
参考と言う訳ではないですが、金輪継と言う工法が有りまして、これは恐らく木工技術の中では最高峰に近い接ぎ木の仕方有ります。

他にもこのような動画は沢山有りますが、見るにつけもっと勉強せねばなあ等と思う次第。
色々この手の資料を集めて分析して練って固めてってやっては居るんですが、その内、何か新しい事が見つかるかもしれませんね。

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接着が終わったら、補強材の整形〜素地調整〜目止〜部分塗装までを行います。今回は部分塗装になるのですがブラウンバーストで目隠しを行います。よく乾燥させたらトップにラッカークリアを掛けて行きます。

今回はフレットの擦り合わせ及びナットの交換、電装系のフルリフレッシュもメニューに入っておりましたので、それらの作業も進めていきます。もちろん塗装が乾いてからですけどね。

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この辺りは元の状態がそれほど悪く有りませんでしたので、割と素直に短時間で収まりました。

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今回はPUはお客様ご支給の物でしたので、指定通り組み込んでいきます。

その後、クリアを研ぎ出して鏡面仕上げを行い、、
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部品を組み込んで、補強部分の様子を見て問題が無ければ、完成です。
ブラウンバースト部分は実物はもっと自然な感じなんですけども、中々写真ではわかり難いですね。。

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今回の修理は結構時間が掛ってしまいましたが、部分塗装用に新しいピースコン等資材投入のきっかけになりましたので、いい経験をさせて頂きました。

一昔前は今回の様な古い楽器が沢山廃棄されていた様に思いますが、その後リサイクルショップ文化やオークション文化が根付いた事も有り、廃棄を免れたケースも昨今では増えて、一般的に知られるブランドの楽器で有れば、どんな状態でも¥1000位の値段が付くと言う状態に市場が成熟した感が有ります。但し、そのような楽器の場合は状態が悪く、今回の様な破損を起こしている物が恐らく沢山有るのではないでしょうか。少し話は横道にそれますが、ある引っ越し屋さんに聞いたところによると、引っ越しで不用品を引き取る際に、ギターと言うのは割合よく有るそうで、こう言った業者さんあたりから大量に廃棄されたり、リサイクルショップに流れたりする事が有るんだそうです。

そんな話を聞くとつい勿体ないよなあと思うのですが、私だけでは全てを救って市場に戻すのは物理的にも時間的にも無理ですし、そもそも市場原理の話も有りますので、、こうして古い楽器を更生させて行くと言うご依頼に関しては、ある種オーナー様より熱が入ってしまいがちです。これは私個人がこう言った事を天職と感じているからかもしれませんね。

と言った所で本日はここまで。

大阪府T様ご依頼有難うございました。
引き続きのご愛顧のほど宜しくお願い致します。
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2012年07月16日

ギブソンSGネック折れ修理 

もうずいぶん前に行った修理ですが、修理技術情報系の記事をアップします。
ギブソンSGスペシャルですが、東京のとある筋から修理依頼を頂戴しました。
ギブソン系ネックにつきもののヘッド折れと言う奴ですね。

まずは修理前の全景から
(画像が極めて小さいくて申し訳ありません。各画像はサムネイルをクリックしますとある程度拡大した物が見られますのでご容赦を)

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程良く使い込まれた感じのする状態ですね。塗装のダメージ等も良くある感じです。

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ボディーアップ。これ色んな所が欠けたり磨り傷があったりで歴戦の貫禄を湛えてます。
こう言うのは中々レリックとかでは表現できない感じですね

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問題はボディーバックからネックに掛けてファイヤーパターンのステッカーが貼られている事。
これはネック折れ部分の塗装の際に邪魔ですから、お客様了承済みの上で剥がしてしまう事になりました。

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肝心のネック折れ部分ですが、これがまた酷くてですね、行ったんお客様が流し込まれたとみられる正体不明の接着剤が沢山付着してました。これがかなりの悪さをしておりまして、もう割れた断面には接着剤が効かない状態になってます。
こういう状態で持ち込まれる事は沢山あるんですが、ネックは折れたら絶対接着剤は使わないでください。プロでも難しい修理の部類に入るのですから、ユーザーさんご自身が下手に接着剤を流し込まれますと、切削部分が増えたり、補強の量が増えたりで却って修理費用が高額に跳ね上がる危険性もあります。

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別角度から。割れの周辺になにか漏れ出しているのが判りますでしょうか。。。?かなり解りにくいですが。

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もやはこの割れや接着剤が染み渡った部位を一旦すべて削り落して、新たな当て木を当ててあげる工法しかありあせんね。。と言う事で作った当て木です。これマホガニーのブロックから削りだすのですが、ちょうどいい大きさの物がアコースティックギター系の材料在庫に有りましたので利用します。これの元はアコギのネックジョイントブロックを今回の当て木として最適〜最強の強度が出る様に削り出しました。

又、実験中のある種の特殊な処理を施して有りまして、木の動きや強度を高めてあります。
どういう工法かは申せませんが、あまり楽器業界ではなじみが無い工法ではないかと思います。
私が開発した訳ではありませんのでアレですが、切削してる段階から「あ、硬ったーい。これいつもと違うわー」と言うのが実感出来る位違ったりしてますね。
で、このブロックはこの時点で、かまぼこ状の形態へ整形しておきます。この形状に関しては後の写真でも説明しますが、ケースバイケースです。所謂「勘所」って奴ですね。

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この折れ方のケースで行くとこの位の形になりました。

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で、今度は楽器側の破損部分を全て削り飛ばしてしまいます。
今回はボリュートを付けて強度アップも含んだ作業内容ですから、多少深い目に削り取りますが、トラスロッドの関係があるので、深追いは禁物です。この時点でトラスロッドの調整口が切削部より顔を覗かせてます。

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ここに前工程で製作したマホガニーブロックの湾曲を双方ピッタリ合うように、尚且つ強度が出るような面積を確保した上できっちり密着する様に合わせます。削っては合わせ、削っては合わせと本当に気の遠くなるような作業を繰り返します。

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このマホガニーブロックには当然ですがトラスロッド調整口の逃げを接着前にあらかじめ掘っておきます。

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そしてばっちり密着するまで調整したら、次工程ではマホガニーブロックを接着!
これも結構クランプを使い慣れていないと力加減が難しくて接着強度が落ちたりするようですが、こればっかりはもう言葉ではなんとも言い表せない感覚的な部分ですね。一つだけ言うと締め過ぎたら駄目と言う事でしょうか。

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接着剤が乾燥したら当然次はブロックの切削整形〜サンディングです。
強度を上げる為にボリュートを付けると言う依頼なのでこの様に成ってます。ここの形状は色んなご意見と好みがあるかもしれませんが、、、形状は私に一任されていたので70Sギブソンに良くあった形状を再現しました。私、結構70Sのギブソンが好きでネットや書籍等で資料を見かける度に貯め込んでいたりします。
一般的には50Sが至高と皆さん思われるかもしれませんが、結構面白いんですよね。この時代のギブソン。

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ボリュート部分をオールラッカー塗料にて部分塗装して仕上げ。生地整形も良いレベルで行けましたし、接着強度も強固ですので、再び折れるような扱いさえしなければ大丈夫でしょう。

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そして冒頭に有ったネック裏のステッカーがラッカー塗装をかなり侵していたので、ほぼネック裏全体をリフィニッシュしました。
ラッカーの白は経年変化でクリアが黄色く変色しますし、また斑のある変わり方をするので、部分塗装は色決めが難しいのですが、なんとか全体のトーンと合わせる感じで自然な仕上がりになりました。

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裏面全体像ですがこんな感じです。元は折れた楽器なんて誰も思わないレベルで仕上がりました。
当然楽器として振動系は全て調整済。実は合わせてナット交換も行って完成です。

とにかく時間はかかりましたが、、、お待ち頂いたお客様には大変ご迷惑をおかけして申し訳有りませんでした。

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何年かぶりの技術系記事のアップでしたが、如何でしたでしょうか?
この様な作業も承っておりますので、何かありましたらご相談頂ければ幸いです。
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2008年06月13日

ストラトのネック折れ(割れ)の修理

先日、お世話になっている某ギタリストがお勤めのライブハウス様から、急を要する修理依頼を頂きまして、その対応をさせて頂きました。

内容はと言うと・・・・・

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(サムネイルをクリックしてください。画像が拡大します)
フェンダージャパン社のエリッククラプトン系モデルですね。

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ヘッド折れ(割れ)で御座います・・・・
折れた原因なんですがこれがまた特殊でして。。

ライブハウスのステージか控え室か、その辺りは良く判らないのですが、出演者様が楽器を高く持ち上げた際、回転している換気扇にヘッドを巻き込ませてしまったそうです・・・
不慮の事故とは言え、かなり珍しいタイプの事故ですね。

最初はJF社へネック差し替えの見積り依頼を出したそうなのですが、その額がこちらで修理する費用と比べてかなり高価であった為、私の所へ修理依頼が来たという物です。

ご覧の通り、割れてしまっている訳ですが、一部ヘッド裏面を除き欠損部分が少ないのが幸いと言った所でしょうか。
その他に、このネックは艶消しクリア仕上げという、部分塗装修理がしやすい物であった事も有利ですね。

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一見クビの皮一枚で繋がっているように見えますが、完全に割れてしまっているようで、ペグポストを保持するブッシュを抜いてみたら、欠損部分がぽろっと取れてしまいました。
こういう破損の場合、下手に繋がっているよりも、完全に取れてしまっている方が修理がしやすいので良しとしましょうか。

そして今回の難関は、破損から大分日数が経ってしまっていた為、破損部分同士が木部の呼吸によって変形してしまっています・・・・

その為、完全に密着させる事は不可能で(さらに換気扇による物でしょうか、汚れが付いてしまっています・・)、ひび割れ部分に多少隙間が開いてしまいます。平たく言いますと、修理痕が残ると言う事ですね。

今回はその辺りをクライアント様と打ち合わせまして、接着後一旦部分塗装で修理痕を塗り潰して木目を書く方法(修理費用が高価になる)と、修理痕を有る程度無視して強度を回復〜楽器としての機能を回復(修理費用が安価で済む方法)の二通りご提案させて頂きましたが、今回は後者の修理法を取る事になりました。

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今回また重要な接着中の写真は有りませんが、今回は専用のヘッド型の圧着ジグを製作〜接着作業を行いました。

特に今回の物が特殊な理由は、換気扇のファンに巻き込まれて捩れる様に木が裂けてしまっているので、その辺りの状況を想像しつつ、ファンがぶつかったのとは逆方向にクランプを掛けて接着してあげる必要がありました。(相変わらず文字で書くと判りにくいですね。。)

この時点で、楽器としての木部強度は十分に取り戻せています。

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やはり悔しい事にひび割れ部分は目立ってしまいますね。どうクランプを掛けても、これだけはどうしようも有りませんね。。汚れは極力除去したんですが。

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ヘッド裏の木部欠損部分は同質のメイプル材で埋め木をした上、痛んでいたペグ取り付け穴も埋め戻しておきます。
この埋め木作業はヘッドトップのひび割れが目立つ部分行っても良いんですが、それを行うと費用が嵩む事や、そもそもの欠損部分の大きさの都合から今回は見送りました。

この後、修理部分の目止めをきっちり行い、艶消しクリアを部分的に吹いてあげて木部修理は終了です。

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後は部品を組み戻してあげて終了です。
FJ社のクラプトンモデルはコストパフォーマンスがかなり優れていますね。レースセンサーゴールドの音は久しぶりに聞きましたが、何だかんだ言ってやはり好みの音ではあります。(ある問題が有って個人的には頼まれない限りは使わない様になったのですが・・)

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こんな感じですが、やはりヘッドトップの修理痕が多少でも残ってしまった事は悔しいですね。。。もう少し早く入庫して修理に着手出来ていれば・・・と思ったり。この辺りはクライアント様の予算と打ち合わせの兼ね合いになりますので深くは追求出来ませんね。
何にせよ、楽器としてちゃんと復活したと言う事が私個人としても感慨深い物があります。。。

とりあえず間接的なご依頼だったとは言え、この楽器のオーナー様に喜んで頂けたとのご連絡がありましたので一安心です。

これをご覧の皆様へ、ネック折れが起きた場合、理想としてはその日のうちに修理に出して下さい。そうする事によって、見た目も完全に修理する事が可能です。費用も少なくて済みます。

と言った様な所で本日はここまで!
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2008年05月16日

S氏LPネック折れ修理(オービルbyギブソン)

そういえば、リペア関連では定番のネック折れの記事を一切書いていない事に今更ながらに気が付きました。

なぜ今まで無かったかと言うと、木工中はホコリが舞い、あまりデジカメを触りたくないので写真を撮っていないと言うのも要因の一つでしょうか。

さて今回は、ネック折れ修理(オービルbyギブソン)をごく簡単に紹介しておきます。

オーナーである知人のS氏が、引越しの際に誤ってネックにひびを入れてしまったそうで・・・・物凄く思い入れが有る楽器なので出来れば何とかして治して欲しいと言う要望と、折れたままの楽器持ってるのを見るのは忍びないと言う私の気持ちから、今回の修理が始まりました。

現状はどんなかと言いますと、
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ヘッド裏のヒビ、手で押すと傷口がパクパク動く程のヒビです。
(サムネイルをクリックしてください。画像が拡大します)

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ヘッド突き板の剥がれ

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指板の剥がれ

ご覧の通り、ヘッド裏のヒビと、指板・ヘッド突き板剥がれと言う割と良く有る破損状況ですね。
指板剥がれとヘッド突き板剥がれは比較的簡単に修理できますが、問題はヘッド裏のヒビですか・・・

と言っても、こんなのはネック折れの修理の中では「軽症中の軽症」ですので、サクっと修理します。

で、その修理に関してなのですが、割れてから数年という時間が経ってしまっていた為、単純に接着剤を流し込んでクランプを掛けても強度は取り戻せないだろうと言う判断をしました。その為、今回はヘッド裏にスリットを掘ってメイプル材で埋め木補強を行う事にします。

何段階かに分けて、接着作業を行うのですが、今回の一発目は単純に現在のヒビ部分を接着してしまいます。(写真は無いですが)

その後、
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こんな感じで、今回は最も傷の深い所・力が掛かってしまった所など、2箇所にスリットを掘りました。このスロットはヘッド角度と同一に掘ってあります。因みに真ん中の落書きはトラスロッドの調整口の位置の目安をざっとマジックで書いた状態です。

そして、このスリットに
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ハードメイプル材の埋め木を挿入して強度回復を行う訳ですね。この埋め木はハードメイプルの強度を最大限に生かす為に、ヘッドに対し垂直に柾目になるように木取りをして有ります。と言う事は側面は板目です。写真で判ります?

木目方向.PNG
(サムネイルをクリックしてください。画像が拡大します)
絵に描くとこんな感じですね。弦の張力・ひび割れの方向に対して、補強強度が最大限になる様にする訳です

これをスリットと同じ形状に整形する訳ですね。実際はコピー用紙の厚み一枚分位大きく作ります。スリットに抜き差しした時にキュッと抵抗がある程度に大きく。。。判りますかね、、この感覚。。。文字じゃ判り難いですよね。。すいません。

そして接着を行う訳ですが、
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接着にはタイトボンドを利用します。近年入手性もかなり良くなり、仕上がり強度も良好なので、メーカーや楽器修理生産の現場では重宝されてます。実の所、現在私は全然別の接着剤を使ってますが。。。。この記事はまだこの接着剤を使っていた頃の話です。
楽器修理の世界では膠(にかわ:動物性たんぱく質を煮出して作られた昔ながらの接着剤)で修理するのが本道って事も言われますし、お客様のリクエストなど、ケースバイケースで柔軟に対応しますが、個人的にはあまり使いません。

昔の勤務先のメーカーに居た頃、私は一日中アコギのブリッジの台座を整形〜接着作業を行うような部署で集中的に仕事をしていた為、接着剤に関してはいろいろ研究させて頂く機会が有ったりした。もはや何本ブリッジを張ったか把握できない程の数です。その頃の経験が今物凄く役に立っています。まだまだ個人的に結構な私費を投入して研究をこっそり続けてますけれど。

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で、こんな感じで埋め木を接着!通常クランプを3本互い違いに掛けるんですが、なぜか2本の画像しか残ってませんでした。今回は修理部分をサンバーストで塗り潰してしまいますので、メイプル材のみで埋めてあります。もちろん修理部分を判りにくくする場合はマホガニーや、マホメイプルなどのプライウッドを埋める事もあります。

後ヘッドの突き板と指板剥がれは別の接着剤を使い、既に修理済みです。

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ちょっと写真は大きいですが、こんな感じで埋め木の整形まで終わった所です。今回の楽器はグリップ部分に打痕が多かったので「どうせならそれも修理してしまえ!」とばかりに周りの塗装も剥してしまいました。

今回はこの後、当て木をしてボリュート
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(強度を稼ぐ為にヘッド裏に突起を作る事。70年代のギブソンや、アコギなどに良く見られる補強形状)を入れるかどうするか?と言う所ですが・・・・今回はこの補強の時点で強度の回復が図れている事と、予算の都合で見送る事としました。

余談ですが、ボリュートの追加工に関して、ネック折れには付き物の様に言われますが、下手を打つと逆に強度が低下する事もありますので、これもまたケースバイケースでの対応になります。お客様がリクエストして下さる場合も多いんですが、欠損部分の状態次第により、私が必要か否かを判断します。

個人的には何でもかんでもヴォリュートを入れる修理の仕方は無駄に費用が嵩むだけだと考えています。

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ちょっと判りにくいですが、サンバーストになってるのわかります?
こうして修理部分の目隠しと保護を行う訳ですね。手間の分高くつきますので予算次第ですが、、木目を書いたり元の色に合わせて修理痕を判り難くする事も可能です。

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塗装が乾いた頃を見計らって部品を組み込み、調整してめでたく完成!です。因みに、ナット交換とフレットの擦り合わせも同時に行ってあります。

なぜか画像が曇ってますね。。

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元々S氏がセルフでネックグリップに艶消し加工していたので、それにあわせて、サンバースト部分は艶消しクリアを塗ってあります。

納品後、S氏から「すげえがっちりした音になって帰ってきた!ありがとう!」と言って喜んで頂けました。

その喜びの声を聞く為にこの仕事やってんだよなーと言う所でいつもながらに感慨深いものがありますね。特にこういう楽器が生きるか死ぬかの修理を終えた後は。

と言ったような所で本日はここまで!
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