まず、ネック折れの原因として多いのはギブソン系等のヘッドアングルがついているギターを転倒させてしまった際に起こりやすい破損です。
前回の記事の様に木部繊維が裂けてしまったり、ヘッドが取れてしまう程で有ったり、症状は様々ですが、 「折れたらまず初動としてはどうするか?」と言う事。
よく自力で直そうとして瞬間接着剤だらけにされてしまったギターをなんかを見かけますが、これは殆どの場合NGです。そのプレーヤーさんが別の意味で職業的職人(外科医さんとか大工さんとかETC..)さんであったなら、見た目はともかく接着はできるかもしれませんが。。まずは実績の有るリペアマンに見て貰ってください。
そして折れたら速やかに次の作業をお願いします。
@ヘッドがまだ繋がっている場合。
弦を外します。弦のテンションが掛ったままですと、破損部から侵入した湿気で木部が変形し癖が付きますので、弦の張りっぱなしはダメです。また昨今のギブソンのレギュラーラインのギターやそのコピーモデルはヘッド表面のツキ板に樹脂製のヘッドプレートを使用している事が有り、このプレートに癖がついてしまうと、修復が困難です。又折れた木部が湿気を帯びてしまうと木の膨張で折れた面が修理時に密着しなくなりますので、サランラップなどを巻いて湿気の侵入を防いで頂けるとありがたいです。
Aヘッドが取れてしまった場合
同じく弦を外し、破断面を崩さない様に注意の上サランラップで湿気を遮断して下さい。
また破片は出来る限り集めて同じくラップで包んで下さい。
ネック折れは破損規模にもよりますが、対処が速ければ速い程、綺麗に修復できますので、事故が起きたら可及的速やかにリペアマンの元へ持ち込んで下さい。
次にご質問の中で出てくる事が多いのですが、破損部を接着する事によっておこる音色の変化についてですが、結論から厳密に申し上げますと、音色の変化は起こり得ます。
といいますのも、ネック折れその物を修理する際に多かれ少なかれ接着剤を使用しますし、修理規模によっては、別の補強材を埋め込んでいきます。これは元々の状態を構成していた木部状態や剛性の変化を意味し、ここから導き出される答えは、振動体であるネックの剛性や質量が変われば音質が変化すると言う事です。
逆説的に行けば補強が少ない程、音質の変化は少ないと考えられます。
別の側面で行けば、ネック修理後補強力が強い場合、弦を張った際にヘッド起きの量が変わり、音色が変化する事もあり得ます。
但し、これらは聞き分けられるレベルかどうかはプレーヤーさん次第です。
リペアマンは基本的に破損してからその楽器を触る事が多く、その個体の音色を把握してない事が殆どです。元はこうであっただろうなあと言う所まで修復の努力はしますけれども、どうしても変化の量についてはプレーヤーさんの感覚に委ねられる部分となります。正しい修理がおこなわれていれば修復歴が有るからと言って音が悪くなる事はありません。
次に接着強度ついてですが、セットネックのエレキギターやアコースティックギターなどは構造上、殆どの部分が接着剤で組み立てられます。正しく接着されていれば自然に分解すると言った事が起こらない事と同様に、ネック折れの修理も基本的な強度は同じく、自然に分解するような状態ではありません。通常はもっと強固に接着修理され、又補強材の兼ね合いもあり、ネックの剛性その物は向上している事が殆どです。
もしもネック折れ部分の木部の接着が剥がれたとなったら、それは正しい接着剤の使い方ではなかったか、正しい修復法ではなかったと考えられます。正しい修理法がなされた機体で、もし再度同じ事故が起きた際は最初の修理部位の接着面ではなく、すぐ近くの別の部位から破断したり、または正反対のヒールから折れたりする事が殆どです。
そう言った所から接着強度については、ご心配いただくよりも、その後、扱いの方を丁寧にして頂ければと思います。
接着剤の使い方については別途記事を書いておりますので、そちらもご参照いただけると幸いです。
グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html
次に、修理内容に関してですが、修復方法は幾通りもありまして、破損状態と補強の具合と予算と仕上がりのバランスによって変わってきます。これは有る程度現物次第ですので、お気軽にご相談下さい。
私共で過去にネック折れの修理を多数担当させて頂きましたが、どの件もハードな使用に耐えられる様、一生懸命知恵や色んな手法を使って直します。修理を行った楽器の中にはプロのミュージシャンがツアーに持って出かけるものも少なくないですが、全く問題なく使えています。
そもそもプロ/アマチュアを問わずお客様としては楽器が折れてしまうと相当ショックな訳で、極力そのショックを和らげて、その楽器をまた弾ける状態に戻すのが私共の仕事です。これはプレーヤーさんがどんな方であれ変わる事のない姿勢です。
と言った様な所で本日はここまで。