1960年代、エレキブームに乗っかって下駄屋もエレキギターを作ったと言われるそんな時代に生まれたグヤトーンのギターですね。
日本のビザールギターに関しては詳しい方も沢山おいでですので、モデル考証等、ご存知の方は私に教えて頂きたい位、作業をしていて面白いギターでした
今回のメニューはブリッジの新規取り付け及びペグの交換、電装系のチェックでした。
残念な事に、ブリッジサドルが欠品しており弦が張れない状態でしたので、元の音がどんな音か定かでは有りません。その状態へゴトー社製のチューン・オー・マティックブリッジを取付、ペグもゴトー社製クルーソンタイプに交換と言う依頼でした。
元の状態はこんな感じですね。
スイッチが沢山付いていて良く解りませんが、各PUのオンオフスイッチ及びローカットトーンスイッチ、プリセットボリュームと通常のボリューム/トーンと言った盛りだくさんな内容となっております。恐らくフェンダージャガー等を意識して作られたんじゃないかなーと言う仕様。またこの時代のギターの多くはピックガードが金属プレスの上にメッキされている様な物が多く見受けられます。50'Sのアメ車みたいで無茶苦茶カッコイイなあと感心してしまいました。
デザイン的には当時の世相や音楽の流行り/生産技術的には家電の生産技術の応用/楽器の理論と言う物が全くない状態で型を起こしたり/木工製品生産技術に関する点など、総合して出来たのがこういった極めてオリジナリティーの強いモデルだと思われます。恐らく当時はフェンダー社製のギターなどそうそう実物を見る事も出来ませんので、レコードジャケットの写真から想像力だけでエレキギターを作っていたと言われています。
それってすごい事だと思いませんか?買えないなら作れば良い/見た事ないけど大体こんなんじゃないかなあ?でプロダクトを起こしてビジネスが始まる辺り、戦後日本の技術者の底力を見た気がします
そんな諸先輩方に敬意を表しながら、使える楽器にする事が今回の作業です。
トレモロを分解してみました。まあ良くあるビグズビー/モズライトタイプと言った感じの押しバネで作動するタイプですね。きれいに磨いて組み込みます。
スポンジがもう加水分解されてボロボロでした。
またPU固定/調整ビス間のゴムチューブも完全に固着して用をなさない状態となっています。
これらはこうもう関するしか有りませんね。
と言う事で、円錐ばねを用意して交換します。
次は電装系ですね。作業方針は配線材交換し、きれいに引き直して完了です。
これらのビザールギター等の古いコンデンサは機能している限り極力交換はしないのが私の考え方です。理由は音色が変わると言う事もあるのですが、現在のE系の定数では存在しない数値のコンデンサが使われている事が有り、その存在だけでも大変貴重なのです。ですので、こう言ったギターの場合、私は極力コンデンサは交換しない様にしています。
次はペグの交換作業です。
元のペグは非常に精度が悪く、ギアもかなり摩耗し、バックラッシュなども起きている状態でしたので、楽器として機能させるには交換は必須の条件でした。
まずは全てのペグを外し、サビや潤滑油がかなり回ってしまっている元の取付穴を一度ドリル攫い、全て埋め戻します。
元々作業的にはそれほど難しくは有りませんが、元のネック材はかなり柔らかい材種のメイプル?樫の木の様で、怖いぐらいに簡単にビス穴の攫いが出来てしまいました。
これが今回新調する為に用意したゴトー製のペグになります。
このセット、ちょっと特殊でして、通常ストラト等に使われるペグの場合、取付用ビス穴部分がカットされていて、1本のネジで二つのペグを固定する様になっているのですが、
(こんな風ですね)
今回、その取り付け方は出来ない為、特別にレスポールジュニア等に使われる取付ビスの穴が切り落とされる前の物で片連セットになった物を用意しました。
取り付けてみるとこんな感じですね。ペグ穴の間隔に若干のずれが有るようで、一部収まりが悪い部分も有りましたが、耳同士を均等に削って合わせて取り付けてあります。
次はブリッジの取付ですね。
こんな風にセンター出しと、ネックスケールから割り出したオクターブ位置にブリッジを取り付けます。この辺りはギターの物理的な理屈に則って作業すれば問題ありません。
今回のブリッジはお客様からの指定の品番で、ブリッジアンカーが必要な物でした。
比較的大口径の取付穴をボール盤でボディー面に垂直で開ける必要なあります。
穴あけ作業後、ブリッジを取り付けたらこの部分の作業は一旦完成
因みにキャビティーが黒いのは既に導電性塗料が塗られている所為ですね。
その後、各種組み込みを行い、調整し、正常に作動することを確認したら作業完了です。
完成後、チェックの為に随分弾いてみましたが、結構いい音がするPUが有りました。
この時代のPUを含め、ビザールギターは恐らくもう二度と作る事は出来ません。
こう言ったギターの音色は文化的な価値から行くと結構高いのでは?と常々思っているのですが、残念ながら失われてしまった技術や、もう現物がこの世に存在しない物まで沢山有るのだと思うと大変さびしい限りですが。
オールドギターは何もギブソン/フェンダーだけが文化的価値が有るのではなく、これらの楽器を一番最初に作ったエンジニアや、購入したファーストオーナーの想いや、その時代の臭い、移り変わっていく時代の中で不遇な扱いを受けた歴史など、それらを含めて価値が有るのだと思っています。
ただ、こう言った作業で改修を行うと、上に挙げた様な価値が損なわれると大変お怒りになられる方もおいでかもしれません。ですが楽器はやはり弾いてこそ意味が有るのでは?と言う想いから、複雑な気持ちを抱えながらも作業させて頂いた次第です。
そんな訳で、大変貴重な経験をさせて頂いた訳ですが、作業後の全体写真を撮り損ねているのは大変残念です。
K様ご依頼ありがとうございました。
またのご用命とご愛顧の程お待ち申し上げております。