2013年01月27日

グヤトーン社製ビザールギターの改修

今回は掲題通り、K様のグヤトーン社製ビザールギターの改修を担当させて頂きました。
1960年代、エレキブームに乗っかって下駄屋もエレキギターを作ったと言われるそんな時代に生まれたグヤトーンのギターですね。
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日本のビザールギターに関しては詳しい方も沢山おいでですので、モデル考証等、ご存知の方は私に教えて頂きたい位、作業をしていて面白いギターでした

今回のメニューはブリッジの新規取り付け及びペグの交換、電装系のチェックでした。

残念な事に、ブリッジサドルが欠品しており弦が張れない状態でしたので、元の音がどんな音か定かでは有りません。その状態へゴトー社製のチューン・オー・マティックブリッジを取付、ペグもゴトー社製クルーソンタイプに交換と言う依頼でした。

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元の状態はこんな感じですね。

スイッチが沢山付いていて良く解りませんが、各PUのオンオフスイッチ及びローカットトーンスイッチ、プリセットボリュームと通常のボリューム/トーンと言った盛りだくさんな内容となっております。恐らくフェンダージャガー等を意識して作られたんじゃないかなーと言う仕様。またこの時代のギターの多くはピックガードが金属プレスの上にメッキされている様な物が多く見受けられます。50'Sのアメ車みたいで無茶苦茶カッコイイなあと感心してしまいました。

デザイン的には当時の世相や音楽の流行り/生産技術的には家電の生産技術の応用/楽器の理論と言う物が全くない状態で型を起こしたり/木工製品生産技術に関する点など、総合して出来たのがこういった極めてオリジナリティーの強いモデルだと思われます。恐らく当時はフェンダー社製のギターなどそうそう実物を見る事も出来ませんので、レコードジャケットの写真から想像力だけでエレキギターを作っていたと言われています。

それってすごい事だと思いませんか?買えないなら作れば良い/見た事ないけど大体こんなんじゃないかなあ?でプロダクトを起こしてビジネスが始まる辺り、戦後日本の技術者の底力を見た気がします

そんな諸先輩方に敬意を表しながら、使える楽器にする事が今回の作業です。

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トレモロを分解してみました。まあ良くあるビグズビー/モズライトタイプと言った感じの押しバネで作動するタイプですね。きれいに磨いて組み込みます。

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スポンジがもう加水分解されてボロボロでした。

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またPU固定/調整ビス間のゴムチューブも完全に固着して用をなさない状態となっています。

これらはこうもう関するしか有りませんね。
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と言う事で、円錐ばねを用意して交換します。

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次は電装系ですね。作業方針は配線材交換し、きれいに引き直して完了です。
これらのビザールギター等の古いコンデンサは機能している限り極力交換はしないのが私の考え方です。理由は音色が変わると言う事もあるのですが、現在のE系の定数では存在しない数値のコンデンサが使われている事が有り、その存在だけでも大変貴重なのです。ですので、こう言ったギターの場合、私は極力コンデンサは交換しない様にしています。

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次はペグの交換作業です。
元のペグは非常に精度が悪く、ギアもかなり摩耗し、バックラッシュなども起きている状態でしたので、楽器として機能させるには交換は必須の条件でした。

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まずは全てのペグを外し、サビや潤滑油がかなり回ってしまっている元の取付穴を一度ドリル攫い、全て埋め戻します。
元々作業的にはそれほど難しくは有りませんが、元のネック材はかなり柔らかい材種のメイプル?樫の木の様で、怖いぐらいに簡単にビス穴の攫いが出来てしまいました。

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これが今回新調する為に用意したゴトー製のペグになります。
このセット、ちょっと特殊でして、通常ストラト等に使われるペグの場合、取付用ビス穴部分がカットされていて、1本のネジで二つのペグを固定する様になっているのですが、
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(こんな風ですね)
今回、その取り付け方は出来ない為、特別にレスポールジュニア等に使われる取付ビスの穴が切り落とされる前の物で片連セットになった物を用意しました。

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取り付けてみるとこんな感じですね。ペグ穴の間隔に若干のずれが有るようで、一部収まりが悪い部分も有りましたが、耳同士を均等に削って合わせて取り付けてあります。

次はブリッジの取付ですね。
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こんな風にセンター出しと、ネックスケールから割り出したオクターブ位置にブリッジを取り付けます。この辺りはギターの物理的な理屈に則って作業すれば問題ありません。
今回のブリッジはお客様からの指定の品番で、ブリッジアンカーが必要な物でした。
比較的大口径の取付穴をボール盤でボディー面に垂直で開ける必要なあります。

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穴あけ作業後、ブリッジを取り付けたらこの部分の作業は一旦完成

因みにキャビティーが黒いのは既に導電性塗料が塗られている所為ですね。

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その後、各種組み込みを行い、調整し、正常に作動することを確認したら作業完了です。

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完成後、チェックの為に随分弾いてみましたが、結構いい音がするPUが有りました。
この時代のPUを含め、ビザールギターは恐らくもう二度と作る事は出来ません。
こう言ったギターの音色は文化的な価値から行くと結構高いのでは?と常々思っているのですが、残念ながら失われてしまった技術や、もう現物がこの世に存在しない物まで沢山有るのだと思うと大変さびしい限りですが。

オールドギターは何もギブソン/フェンダーだけが文化的価値が有るのではなく、これらの楽器を一番最初に作ったエンジニアや、購入したファーストオーナーの想いや、その時代の臭い、移り変わっていく時代の中で不遇な扱いを受けた歴史など、それらを含めて価値が有るのだと思っています。

ただ、こう言った作業で改修を行うと、上に挙げた様な価値が損なわれると大変お怒りになられる方もおいでかもしれません。ですが楽器はやはり弾いてこそ意味が有るのでは?と言う想いから、複雑な気持ちを抱えながらも作業させて頂いた次第です。

そんな訳で、大変貴重な経験をさせて頂いた訳ですが、作業後の全体写真を撮り損ねているのは大変残念です。

K様ご依頼ありがとうございました。
またのご用命とご愛顧の程お待ち申し上げております。
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2013年01月12日

フェンダーUSA/PJベースのメンテナンス

今回の記事は掲題通りフェンダーUSAプレシジョンベースのメンテナンスになります。
ご依頼主は私の古い友人でもあり、富山の管楽器工房を経営する高木君からのご依頼でした。

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小ぶりなプレシジョンタイプのボディーにレースセンサーPU/アクティブサーキット、そしてフェンダー刻印入りのブリッジにファインチューナーが付いていたりして、専用設計を思わせますし、中々面白い楽器かと。

特にブリッジは何やらシャーラー製っぽい作りになっているのですが、これが中々良い重量と構造をしています。私このブリッジ、結構好きです。

ただ、このベース、色々調べましたが中々製品詳細が判りません。
Guns N' Rosesのダフがこんな色のベース使ってたなーと言う感じでしょうか。

ボディースタイルはプレシジョンベースですが、リアにジャズべPUが付いていて、ピックガードレスなのも特徴ですね。90年代初頭はこう言うPJスタイルの物がかなり流行っていた様で、各社このPUレイアウトの楽器を発売していました。

私はこのレイアウトに関してはどうしてもPUの位置の問題で、構造的に無理が有ると考えています。

理由の一つがプレシジョン用PUは1/2弦と3/4弦の弦振動をピックアップする位置が違うハムバッキングなのですが、これを通常のジャズべ用PUと組み合わせてハーフトーンを出した際、必ず1/2弦又は3/4弦の弦振動をピックアップする位置が違う為、少し特殊はハーフトーンになります。いわゆるジャズベースのハーフトーンとは違うイメージの音色になってしまいますね。

求めるものが違うと言ってしまえばそこまでですが。


但し、これにはこれにしか出せない音色が有るのも事実で、潜在的なユーザーの方は多いんじゃないかと思っています。

まあそんな感じですかね。

後このベースは、亡くなった私の師匠筋に当たる方が一度メンテナンスを担当したのですが、それから10年近く経ち、随分各部の調整が緩くなっていました。

作業内容は以下の通り

@バッテリーボックスの増設
Aトータルのメンテナンス
B配線の引き直し

取り敢えずコントロールキャビティーを開けてみました。
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量産品だし、こんな物と言えばこんな物。駄目と言えば駄目。と言った感じですね。

このプリアンプは2バンドEQでPUバランサー及びマスターボリュームまで一枚の回路基板で構成されていて、尚且つコントロールポットをボディーに取り付ければ自動的に回路基板が固定されると言う、非常に生産工数的にも優れた仕組みになっています。さすがアンプも作っているフェンダーの開発力と言ったところでしょうか。また結構良いポイントを押さえたEQカーブをしています。

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いつも通りゴトー製バッテリーボックスを追加工して増設。

次はコントロールキャビティーのシールディング加工を追加
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元々塗られていた導電性塗料は非常に薄く、又塗り斑がひどかった為に重ね塗りを行いました。
各部の導通をテスターで確認してから、、、

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回路を再組み込みしました。
再組み込みの際、基板から出ている配線等も処理し直し、各ポットやキャビティーとも配線できちんとアースに落として有ります。これでノイズ対策はバッチリ。

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こんなノブですら専用設計ですから、やっぱりフェンダーの開発力は凄い。しかも実に使いやすいのです。
無茶苦茶因みな話ですが、これスタックノブ/2軸2連ポットでして、古いジャズベースなんかに有りましたが、これは下段がEQで上段がVOになってます。
普通に考えたら下段だけセンタークリック付きの2軸2連ポットで、更に抵抗体の定数が上下で別って相当レアですし、これぞ専用設計!って感じです。
何となくですが、ジョン・サー氏が開発したんじゃないかなーとか想像してしまいますね。
因みにエリッククラプトンのミッドブースターはジョン・サー氏が設計したものだった筈。それより前のエリートストラト系のプリアンプは現在BBE社で取締役のポール・ギャゴン氏がフェンダー在籍時代に開発したと何かの資料で読んだ事が有ります。

と言った様な所で各部振動系統をメンテナンス/調整して終了です。

音を出してみて思ったのがやっぱりレースセンサーはベース用でもレースセンサーだなーと思った次第。

後は、各部調整中、色んな点で亡くなった師匠筋の方が調整の際に触った痕跡を見つけ、ちょっと色んな事を思い出したりしました。

高木君、ご依頼ありがとうございました。

彼は冒頭にも有りましたが、管楽器のリペア工房をやってます。
リペアスタジオ高木
もし管楽器の事でお困りの方がいらっしゃれば是非覗いてみて下さい。
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2012年07月16日

Rickenbacker/Model 4003 弦をボディー裏通し加工

掲題通り今回はRickenbacker/Model 4003 の弦裏通し加工についての記事をアップします。

今回はリッケンバッカー4003といえばポールマッカートニーですとか、モーターヘッドのレミーなんかがユーザーとして有名ですね。
これにしか出せない音色があるので大変人気があるますね。
私個人的にはポールマッカートニーが大好きなので多少思い入れは深いのです。

今回はそれほど大掛かりな加工でも有りませんのでさらっとご紹介に留めます。

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まずはボディーのみ全景から。まあ普通の状態です。

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ブリッジも至って普通の状態

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ブリッジを外した状態ですね。このキャビティーのおかげでリッケンは他のブリッジとの互換性がゼロに等しい訳ですよ。。

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だって、バダスを正しい位置に置くとこれだけキャビティーにかぶってしまうのですよ。。。
これ正しく取り付けようとしたら、埋めて均して塗装する必要が有りますね。。。これは流石に費用面でゴーが出る事は珍しいです。

と言う事で、今回は元のブリッジを使用して裏通しブッシュを取り付け、表の弦が上がってくるラインにも木部保護用のブッシュを打ち込む作業を行います。

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まずは表のブッシュの位置決めからこの位置決めで全てが決まりますので、かなり綿密な検討と製図が必要になります。またこの位置決めには物理的な制約が有りまして。。詳しくは割愛しますが、力学的にバランスが取れた状態が得られる位置と言うのが存在するのですが、それを探す長い検証作業が必要なのです。
因みに、このブッシュ、テレキャスターの弦止めブッシュを加工して利用しています。

なぜこの表ブッシュが必要なのかと言いますと、これは裏から弦が上がってきた際に木部むき出しの状態でテンションが掛ると、どんどんボディー材が弦の圧力で潰れて行ってしまうのですね。それを避ける為の方策です。

で位置決めが終わりましたら、穴あけ〜加工ブッシュ打ち込みと言う作業を行います。

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表のブッシュ位置から垂直に真裏まで通し穴をあけ、裏ブッシュを取り付けます。
写真では写ってませんが、当然段穴加工で、この部分、ボール盤を使用の上、三種類のサイズのドリルで加工しております。(加工作業自体はかなりすっ飛ばしてますが)

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表ブッシュはこんな塩梅ですかね。どうでしょうか。

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次に配線ですが、お客様がPU交換をされたとのことで、この部分のメンテナンスも承っておりますので、並行して作業します。

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とはいっても部品自体はヴォリュームポット以外、消耗もほとんどなく交換する程傷んでおりませんでしたので、VO交換〜再配線/再半田等クリーニングの上再利用します。

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で懸案の裏通し加工ですがブリッジを取り付けて、弦を張りなおしたら完成です。

私個人は音やタッチの関係は結構変わった感じもしますが、実際はユーザーさんや色々な要素が絡んできますので、即日のレビューは難しいかもしれません。ただ一点だけ言える事は、アタックが早くなり、基音の輪郭がはっきりします。

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かなり駆け足で写真も少ない状態でのご紹介でしたが、如何でしょうか?
この様な内容の作業もご相談頂ければご対応させて頂きます。
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2011年06月11日

ミッドブースター用スイッチポットの特注。。。

前回の記事でスイッチポットの特殊定数で特注が出来るかどうかということで、方々探してみた所、電材販売店経由で製造元に問い合わせてもらったのですが。。。

見積もりを見てびっくり。

ミニマムオーダーが1万ピースから。。。。単価は内緒

おいおい普通にん百万掛かるじゃないか。こりゃ駄目だ。こちとらミニマムな商売をやってる以上、そこまでの開発費は突っ込めない。

余程の販売ルートがないととてもじゃないと修理用ストックや歩留まり分を考えても1万ピースは捌けないか。


同メーカーの通常ポットの抵抗体を摘出してスイッチポットに組み替えればやってやれない事は無いけれど。。。むちゃくちゃ手間が掛かる。。結局小ロット生産が更に少ないミニマムにも程が有る数しか作れんしなあ

という事で、話は振り出しに戻ってしまいました。

楽器パーツにしてもそうですが、受動素子はなかなかイメージに合うものを入手することが難しいですね。

という事で今度は別の切り口から攻めて見る事にしました。


その話はまた今度
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2011年04月10日

コンデンサが無い!

とうとう恐れていた日が来ました。。

弊社のミッドブースターに使っている、カットオフ周波数を決める一番重要なコンデンサを製造販売しているメーカーが倒産しまして、まったく同じ性能を持った物が作れなくなってしまいました。

実はそのメーカーが半年以上前に倒産した事を知って、すぐに在庫押さえに走ったのですが、弊社の生産数とのバランスを考えると余りに大量の在庫は持てませんでした。当然これまで施工させて頂いたお客様用の補修部品の為の在庫も必要な訳ですし。

コンデンサの数値が合数であれば理屈上同じなのですが、ことギターの部品ですとかオーディオに詳しい方ならお分かりになる所でしょうが、音色の問題がございまして。これが音的に行ける感じの新しいコンデンサですと、サイズやプリント基板レイアウトの兼ね合いでパチ組出来ないのですね。

と言う事で、基板レイアウトを新しくして基板を発注しなければなりません。。。

こういう事にほんとに弱いのが個人商店のつらい所。

ってなわけで、今後はもう少し別の切り口で、汎用部品だけで成り立つミッドブースターもプロダクトとして用意しようかなと考えております。

例えば従来よりご希望が多かったブーストポットとバイパススイッチの同居、更に基板一体型。カットオフ周波数を弄れる仕様にする。等。

実はもうほとんど回路の設計は出来ているのです。が、こちらの設計意図どおりに動かせる定数のスイッチポットが無いんですね。。それが有れば一気に基板まで起こしちゃうんですが。。

例のギターなんかに使われるスイッチポットの製作元って、変な定数のミニマムオーダーを受けてくれるんでしょうか。というか、アレはどこで作ってるの?と言う事で、現在精意調査中です。今しばらくお待ちを。

と言った所で、本日はここまで
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2011年04月04日

部品の購入や持ち込みに関し

最近よく頂くお問い合わせに関してblog上からご返信申し上げます。

Q:部品の購入に関し、持ち込みは可能ですか?

A:可能です。
とあるリペアショップさんだとかは部品の持ち込みを受け付けないそうですが、それは新品の自社手配部品を修理時に販売して、販売益を修理費用にオールインする事で修理費用の単価を下げて、価格競争しているケースが有る為だと思われます。

別に商売として何ら問題が有る訳ではありませんので、何も言及する事は有りませんが、弊社はそういうスタイルでの収益は最初から見込んでおりません。

例えば、ネット通販や実店舗でお客様が手配する方が安い場合はどんどんご手配なさった方が良いと私は考えております。配送先を弊社指定の住所にして頂けば余分な配送コストも削減できるかもしれません。

Q:中古の部品の再生をお願いしたいのですが。。

A:ある程度可能です
これも他のリペアショップで断られたケースで弊社に話が回ってくる事が有ります。
修復する事自体は別に何ら問題は無いのですが、却って高くつく事が多く、一般的には新品の同規格の物に交換される方が機能的にも良い事も有ります。

但し、現在もう生産されていない部品(よくある案件ではブリッジ)などをオークションでお客様が入手し、2個一でレストアしてください。と言ったご依頼であればいつでもお請け致します。

これが多くのリペアショップで断られる理由は、部品が破損した際の保障が出来ない為。。である事は通常の商売をやって暮らす社会人の方ならご周知の事かと思います。
こういった依頼は当然弊社にとってもリスクを負った仕事となりますが、私個人としては、金物部品のメンテナンスが好きであったり、直してまで使いたいというオーナーさんの愛着と気持ちを大事にしたいのでお請けするのです。

同様に、古い部品を使って組み上げてほしい。。。といった要望にもお応えできます。
最近はあまりないですが、フロイドローズのFRT-3と言った独特のブリッジは現在では中古品しかありません。例えばブラッドギルスモデルが欲しい場合、それを完成に導くには中古品でしか達成できません。そういった事を考えると、やはり中古部品の組み込みはお請けしませんといった姿勢を弊社ではとりません。


但しサビで固着してしまった物等、物理的にどうにもならない事が起こっている場合や、消耗により通常機能が損なわれている物、特殊ビス等の欠品部品が有る物は手が打てません。そこだけはご承知置きをお願い致します。

と言った様な所で本日はここまで
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2009年08月19日

フェルナンデスのブリッジスタッド浮き修理&etc

ここの所、地震や台風などの天災が多く続いておりますが、如何お過ごしでしょうか。

それ以外にも芸能ネタや選挙ネタなど、世間を騒がす要因がたくさんありますが(私はテレビを全く見ないのでアレですが)、何にせよ平穏な生活が営めると言う事が如何に有り難い事かと、日々実感している次第です。

今回は久し振りに修理の記事を書いてみようかと思います。F氏やM氏にも記事書かないの?と突っ込まれているので・・・

8月某日、某音楽ユニットのS氏より修理依頼がありまして、その内容が以下の通りの内容でした。

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(サムネイルをクリックして下さい。画像が拡大します)

フェルナンデス社製のソロイスト系サスティナー搭載ギターなんですが。
これ、ぱっと見は結構良く出来てます。が・・・

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スタッドアンカーが手でも抜ける位に緩々です。
この手のトラブルって実はよく有りがちですが・・これではアームアップした場合、即座にスタッドが抜けてきます。
もう一つ言わせて頂くと、スタッド自体の精度も余り宜しくありません。

また穴その物も随分と深い様ですので、それも埋め戻し、適切な穴の深さに直します。

しかし最近では珍しいですね。トレモロキャビティー無しのフロイド搭載ギターは。
この手の構造を持つギターの場合、ボディートップと弦がかなり離れた所に位置しますので、慣れない人は弾きにくいかもしれません。(ピックが深く入り込んでしまう為慣れないと1〜2弦を切りやすい)その代わりこの構造を持つギターはブライト且つ、中域の張り出しが結構強いので好きな人は割と多いのではないかと思います。

実作業は特殊とは言えない迄も独自の技術を使っておりますので、どうやっているかは秘密です。画像も撮り忘れてますが。

とまあちゃちゃっと、この辺りは修理完了です。

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問題はその次に有りました。

フロイドローズを調整しようと思ってネックを外すと・・・・
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なんじゃこりゃ。
(一応書いておきますが、ネック外した直後の画像ですよ)

ラワン材?でビス穴を埋めてありました。ネック側だけ埋めるならまだしも、ボディー側から丸棒を刺してその上からネジを入れたような状態になってました。。。これは前オーナーの仕業なのかな?メーカーでやったとも考えられるし・・・どっちにせよコレは酷い。

なんとも言えませんが、とにかく修理修理。


方法としてはボール盤で元のビス穴や傷んだ部分を全部カバーできる程度に大きめの穴を開け、そこに適切な処理を行ったダボ材を埋め戻して行きます。
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作業後はこんな感じですかね。

この時に使うダボ材はメイプルを使う場合も有りますし、その時々に応じて適切な堅木を使います。但し今回の材料は秘密。メイプルでは有りません。

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もともとのネック材の毟れ等も修理しつつ、適切に埋め戻したらボール盤でジョイントホールを開け直し、ネックの反りを調整してから再組み込みです。

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で、組み直してフロイドローズの調整も済ませた後の写真ですが、入庫時との違いが判りません。まあそんなもんでしょう。見えない所の修理ですから。

本音を言うと、ネックポケットの擦り合わせ+角度付けなんかもやってしまうと良いのですが、今後フロイドキャビティーを追加工する可能性を鑑みた事や諸般の事情の兼ね合いも有り、また追々要望が出た時に対応しましょう。

と言った様な所で本日はここまで。

S氏へ、なんか有ったらまたリアクション下さい。対応します。

因みに当BLOGでは過去にフロイドキャビティー追加工も記事にした事が有ります。
フロイドローズ用アップリセスの追加工
M様フロイドザグリ完成

その他フロイド絡みではカスタムイナーシャブロック作成等も過去に手掛けております。
ジャクソンソロイストの改修
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興味の有る方は是非アクセスを御願い致します。
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2009年07月19日

P-90の話

最近、お客様からの修理依頼でダントツに増えているのが、P90を使用した木部加工を含むPU交換があります。

昔からオールドギブソン以外のリプレイス物でP-90にはロクな物が無いと公言している私ですが、ここ最近良く持ち込まれる某社のPUに関して、もはや怒りを覚えるような構造・耐久性、音色をしている物があります。最早、こんな物売るなよ!レベルの物なのですが。

詳しくはここでは書きませんが、そのPUの修理・改造のご相談頂いた際に、私がやりたがらない空気を出したらその品種でビンゴ!と思って下さい。

さてそのP-90の話。

私はオールド信仰は全く無いのですが、このPUに関してだけはオールド、特にLPカスタムのフロントに載っていたアルニコXの音が非常に魅力的だと考えています。色々随分費用もかけて探し回りましたが、あれと同じ音が出るリプレイス物は私の知る限り、現在でも存在しません。
シンプルな構造が故、古今東西で音色の違いが大きいのです。
勿論オールドの全てが素晴らしい訳ではないですけれど。

もう随分前になりますが、とあるレコーディングの現場で体験して以来、あの音に取り憑かれておりまして、オリジナルPUを製作する際には必ず頭を過ぎる音色でもあります。

最近の物でも、より良い信号をアウトプットするには工夫をすれば良いのですが、それにはある搭載方法を取る必要があります。それは企業秘密ですけれど・・・興味のある方はご依頼下さい。(加工内容の本質は明かせませんが)

オールドのアルニコXが載ったLPカスタムは、私が求める最高の音色の内の一つですね。いつか極上の状態の物を所有出来ると良いのですが・・・・
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2008年07月10日

バインディング剥がれの修正

 またまたBLOGの方が疎かになっていますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
 ここの所めっきり暑くなって夏らしくなってきましたが、皆様体調など崩さない様にどうぞご自愛下さいませ。

 私は去年辺りから、なぜか夏の方が調子が良い状態になってまして、現在、体調・精神共に調子が良く過ごさせて頂いております。昔は夏って体調崩しやすくて大っ嫌いだったんですが。

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さて、今回はO社様より頂いたマーティンのセルバインディング剥がれ修理の記事を書きたいと思います。

全体の写真が滅茶苦茶汚いのしか残っていなかったのですが、
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(サムネイルをクリックして下さい。画像が拡大します)
見たとおりマーティンのD-28ですね。
今回、実は別の案件での調整依頼でお預かりしたのですが、遠方から運送会社様を通じ入庫して来たのは良いのですが、ケースを開ける前に何かいや〜な予感がしたのですね。第六感と言う奴ですか。

恐る恐るケースから取り出してみると・・・・

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写真では判りにくいですね。

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セルバインディング(パーフリング)が剥がれてます・・・・

これを見た瞬間、「おいおいマジかー・・」と呟いてしまいました。
至急オーナー様に連絡を取り、発送前の状態を確認した後、各方面の善後策を色々打ち合わせた所、輸送中に起きた破損であると言う点で運送会社様の保険で修理する事になりました。

ここをご覧の皆様で楽器を良く運送される方は、必ず保険に入って下さい。輸送中に破損した場合30万円までなら補償が効きます。

とまあ、修理費用の負担の問題を解決させたら、後は修理するだけですね。

こう言った破損の原因は、セルバインディングの経年変化により多少収縮して、剥がれそうになっている所に何らかの衝撃が加わって接着層から剥離してしまった・・と考えるのが妥当な様です。因みにマーティンのリペアでは良く有る話だったりしますが。

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今回の修理にあたり、まずセルバインディングを圧着する為の当て木を製作します。その辺にあったスプルース材(建材ですが)の切れ端を加工して、ボディーサイドのRに合わせて整形して製作してみました。

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この当て木を利用して、こんな感じにクランプを掛ける訳です。これでセルバインディングが密着する様に当て木を調整したり、クランプの圧力を調整したり、バインディング溝を掃除して古い接着剤の除去など、色々細かい作業を行います。

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バインディングが良い感じに密着する様になったら、

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接着作業の本番に入ります。
この作業にはある接着剤を使うのですが、この辺は秘密にさせて下さい。(と言っても大した秘密じゃないんですが)

一番Rが急な所は当て木、それ以外は通常のマスキングテープより強度が強いクレープテープと言う物を使います。バインディングを密着させる様にデープで固定していく訳ですね。

場合によりセロファンテープを使う場合も有ります。こう言ったあたりはその時々に応じて使い分けますんで何が良いって決まってる訳じゃないんですが。

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次は、バインディングが剥がれた際に破断してしまった塗装を修繕します。ラッカーシーラーで破断面の段差を埋めていく訳ですね。バック面・サイド面両方埋めていきます。画像では磨き途中ですが。

段差が埋まった後、淡いイエロークリアを部分的に吹いて修理部分を判り難くします。修理部分との境目は色合いをぼかして目立たなくします。マーティンなどのラッカー塗装の楽器の部分塗装はとにかく時間が掛かります。。。

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塗装が乾いて破談部分の段差や色合いが自然に馴染んだ感じになったら、後は磨いて艶を出すだけですね。今回はバック面に小傷が多かったものですから、全体的に磨いて傷取りも行いました。因みに最終仕上げの磨き作業の事を水研磨(みずけんま)や水研(すいけん)等と呼びます。

因みに滅茶苦茶余談ですが、私が昔勤めていたメーカーでは「水研・バフ(バッフィング)」と一括りで塗装仕上げの部署になってました。夏場は本当にきつい仕事なんですね・・・特にバフは。
作業自体が全身運動の為、暑さで意識が飛びそうになります。しくじったら大型バッフィングマシーンに巻き込まれて大怪我する事もあるので、神経を常に尖らせておく必要があります。

とまあ余談は置いといて、
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こんな感じで、バインディング剥がれの修理は終了ですね。破損してからすぐに修理に取り掛かったおかげで破損部分が判らないレベルまで修復出来ました。

こんな感じで本日の所はここまで!
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2008年05月24日

LPスタジオの修理調整

埼玉県在住のH様より、LPスタジオの修理調整の作業をご依頼頂きました。

H様がしばらく友人に貸していたそうで、戻ってきた時にはとてもじゃないが弾けないし、なぜかどう調整しても3〜4弦のビビリが取れない状況になっているので何とかならないか?とのご相談でした。

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(サムネイルをクリックしてください。画像が拡大します)
到着時の写真を見るだけでは大してトラブルを抱えているようには思えないのですが、弾きながら各部を観察していると、ネックが逆反り・ナットの弦溝の底が割れていると言う症状で、ブリッジでの弦高調整ではローフレットの弦高までは上げられない状態でした。

雑然と管理された楽器では良くある症状ですね。

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今回ブリッジで起きていた症状で、写真で見ただけでは判らないのですが、

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ブリッジが(長年の)弦の圧力によって真ん中辺りが湾曲してしまっております(この写真で見るより実物はもっと曲がってます)。この状態では、1弦6弦と3〜4弦の弦高バランスが悪くなって指板Rと合わなくなってしまうんですね。

この症状の為、指板Rとブリッジ弦高バランスの崩れが相まって3〜4弦の弦高が異様に下がってしまっていまして、これが今回のビリ付き症状の大きな原因でした。

この辺りオーナー様と話し合いを持った結果、ブリッジはゴトー製の新品に交換してしまう事にしました。(曲がってしまったブリッジも逆にまげて治せない訳じゃないんですが、オーナー様の気持ち的な所が大きいですね)

因みに、こんな事本当に起こるの?なんて不思議にお思いの方もいらっしゃるかと思いますが・・・・古いギブソン系の楽器は、かなりの割合でこの症状が起きてます。古いLPなどをお持ちの方は一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

次はネック周りですね。
懸案のネックの逆ゾリですが、トラスロッドが効かない程逆ゾリしている場合、否応無しで指板修正の為にフレット打ち変えになってしまうのですが、このネックはトラスロッドを緩めるとばっちり真っ直ぐに戻せましたのでこの部分は一安心です。

因みに逆ゾリでロッドが効かないネックを治す場合、指板を削ってネックを仮想的に真っ直ぐにする訳ですが、そうするとポジションマークやインレイが擦り切れてしまう事が多いので、インレイの入れ直し費用が掛かってしまう事があります。指板も部分的に薄くなるので、ネックの厚みが部分的に変わり、グリップ感やフィーリングも変わってきます(この辺り、気になる方と気にならない方と極端に別れますが)

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フレット周りを観察すると、全体的にはあまり弾かれていない形跡で特定の部分のみが減っている状態でした。最初はフレット打ち変えをご希望だったんですが、フレットは擦り合わせで十分対応出来ると判断しました。

その辺りオーナー様に報告しました所、「じゃあ擦り合わせで御願いします!費用的にも助かりました!」的な話で喜んで頂けました。

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次は、ひびが入ったりしていたナットをさくっと交換ですね。(この辺りもう何度も記事にしてきていますので、思い切って割愛させて頂きます)

因みに、このナット溝の一部、穴が開いているのが判りますでしょうか?
これ、ギブソン社の工場でネックグリップなどを加工する際、機械に固定するジグ用の取り付け穴だったりします。ここは空いたままになっているのも気持ち悪いのでマホガニー材で埋めてしまいます。

その後、新しいナットを取り付けて外形を削り出したら・・・・
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完成です。この後、調整の最終段階でナット溝の切り込み深さをばっちり決めて、ローフレットでの弦高を決定します。ここはピッチ(音程)も重要に関りあう部分ですので慎重に作業します。

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今回ブリッジを交換して綺麗に弦溝を掘って整え、音の立ち上がり(基音)もしっかり出せるように各部精密に調整して完成!

ちゃんとギターとしての機能を全て回復させました。
音はというと、LPスタジオは結構特殊な(セミホロー状のマホガニーバック材に「入れ子構造」で別の柔らかい材が組み込まれています)ボディー構造をしているので、独特な。。他に無い音のLPですね。

オーナー様より、「ちゃんと弾ける様になって戻ってきてとても嬉しいです」と言うような喜びの声を頂けました。

と言った様な所で本日はここまで!

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posted by IRP Products at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 楽器リペア関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする