症状としては、音が出なくなった!と言う事と、全体的な調整を御願いします!との事でお預かりしました。
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到着時なんですが、非常に大事にしておられたらしく、年代の割には非常に綺麗な美観を保っている状態でした。
ヘッドレイアウトも伝家の宝刀!ジャクソンヘッドです。
この年代のジャクソン社の多くはナットにケーラータイプの物が取り付けられています。このナットの構造は、1・6弦がナットの中で引っかかり過ぎるので、本来このヘッドレイアウトに取り付けるのは良くないんですけどね・・・・通常のナットと相まって、微妙にチューニングの安定度が悪いので、本来ならフロイドローズタイプ(上締め)のナットに換装すべきです。
ジャーベルと言うとボルトオンネックだったりする事も多いのですが、これはスルーネックモデルで、ジャクソン直系のMODEL6(日本製)という品番の物ですね。この特徴的なスイッチは各PUのオンオフスイッチとなっています。
演奏中のPU切り替えにおいての操作性はすこぶる悪いのですが、決め音でガンガン行くには非常に良いスイッチングシステムではあります。確かジェフベック先生がこのコントロールレイアウトのストラトを使ってましたね。アレは特殊なスイッチワイヤリングだそうですが。。。
その他特徴的なのは、アクティブミッドブースター回路が内蔵されている事でしょうか。
コントロールとしては1アクティブ回路ヴォリューム、1マスターパッシブトーン、ミッドレンジゲインと言うレイアウトになっています。
とまあその辺りの事は置いておいて、音が出ない原因を探す為にコントロールパネルを開けて見ました。
今まで全く触らずにオリジナルのままだそうですが、相変わらず量産品でアクティブ系楽器の配線は雑然と配線されている事が多いですね。。。
私も量産メーカーに居たので判りますが、メーカーでは時間に追われて配線作業をやらざるを得ず、音さえ出れば良いという生産の仕方をしてしまっていたのでしょう。こうなってしまうのも致し方ない事ではあります。本来はもっときちんと時間を掛けて配線すべきなんですけどね。。。
音が出ないトラブルなので、原因はこの基板周りだろうと、サクっと電装系を分解してみました。
観察してみてすぐに原因が判りました。日本製プラスティックケース入りのジャックの破損と、ミッドブースター回路のコンデンサの液漏れですね。写真ではちょっと判りにくいんですが・・・電源バイアス部分のデカップリング用電解コンデンサの破損によりICも巻き添えを食ってお亡くなりになってました。
因みに電解コンデンサにも耐用年数と言うのが決まっていまして、使い方(回路設計の仕方や使用時間)にも拠るのですが、いつかは駄目になります。今回の例は特殊とは言えないまでも、十分起こり得るトラブルの一つです。(入れっぱなしで忘れてたエフェクターの電池が液漏れしたりするのと同じですね)
この辺の部品をさくっと交換して回路の修理自体は終了です。
ジャックはスイッチクラフト、回路上の電解コンデンサは全てニチコン社製で定数の変更無し。
ICに関してはオリジナルで付いていたTL系がどうにも寝ぼけた音だったのでJRC4558DDに交換しました。
私の耳はどうもFET入力のOPアンプが好きではない様です。この変更に関する辺りはオーナー様と相談の上決定しました。この辺のデュアル(ニ回路入り)OPアンプですと、大抵なんでも使えるので、修理するのは非常に楽です。
因みに、OPアンプと言う部品はこんな8ピンの物が楽器では良く使われています。
安価な¥80位の物から¥2000を越える高い物まで多種多様にありますが、ご自分で色々取り寄せて交換して音を聞き比べてみるのも面白いと思いますよ。内部回路がシングルかデュアルかを間違えたり、逆刺しをしない限り、大抵音が出ます。
(入力インピーダンスの仕様の問題で使えない物もありますが)
PU交換より手軽に且つ、遥かに良い効果が出る事もあったり、もちろん逆の例もあります。
これは余談ですが、「音楽」と「回路設計」を上手く結びつける事が出来る技術者の方は、あまりICを使いたがりません(様々な理由が有りますがここでは割愛します)。
私もその事にやっと気が付き始めて、トランジスタの勉強をやり直し始めています。。まだまだ学ぶべき事は多い。。。道は長い。。。。
せっかく部品を全部外したので、今回はノイズシールディング加工も同時に行います。キャビティーに導電性塗料を塗り、それを配線でアースに落としてあげる訳ですね。
そんな導電性塗料の乾燥を待っている間にブリッジの掃除と調整を行います。、これジャクソンオリジナルデザインのブリッジで、構造自体はフロイドローズを踏襲していますが、調整機構はフロイドローズより遥かに優れていると思います。まあ今や新品ではもう手に入りませんけれど。
このファインチューナーが後ろに有るタイプはフェルナンデス社からも出てましたね。これらの機構は名アイデアだと思います。
個人的に、この手の物で今いくつか良いアイデアがあるんですが、私個人では金物を開発する術を持っていないんですよね。。。いつか世に出したいとは思うのですが。。。
導電性塗料が乾いた所を見計らって、組み込み始めます。
PUはジャクソン社製オリジナルですね。
EMGライクなルックスなので好みが分かれる所では有りますが、メタルギターの枠で終わる音ではなく、非常にフレキシブルでレンジが広くて物凄く私は好きです。メサブギーにインプットすると、もうその時点で「有難う御座います!」と言いたくなる程80'sな音でした。
そんな訳で後に私個人的に手に入れましたが、特にシングルコイルの音が私のお気に入りだったりします。
色々ジャクソン関係の資料やネット上の情報を調べると、このPUの開発におけるバックボーンは物凄く味わい深い物が有りまして、しっかりした理屈に沿って作られていたそうですね。
次に、回路を組み込みます。前回とは違い、綺麗に配線をやり直せば見違える様になりますね。
もう一つ欲を言えば、トラブル防止の為にゴトー製電池ボックスの増設もしたい所なのですが、それらは予算の都合で見送る事となりました。
ここから先、作業工程が前後してますが、フレットの擦り合わせとファイリング(形状を整える)も同時に行ってあります。(実作業では電気関係より擦り合せの方を先に行っています)
画像ではちょっと指紋が付いてしまって汚いですが、フレットの頂点も綺麗に整えてあります。
ナットの溝が痛んでいた上、変なビビリも出ていたので、溝調整の後、外形を削り直してみました。(施工後の写真を撮り忘れてますが)
そんな感じで総調整を行って・・・・
完成です!
写真では到着時と違いが判らん(笑)でも良いんです。オーナー様にご満足頂けましたので!
オーナー様のレビューを要約いたしますと、
「弾き易くなった上にポテンシャルが引き出された感じがする!」と喜んで頂けました。
因みに音の方は、文句無しにジャクソン!80's!ドンシャリ!と言った様なイメージを裏切らない音でした。他のどこにも無い音と言うんですかね。やはり時代の音を作ってきたブランドの力をまざまざと感じた。。そんな一本でした。ただ、現在のギター業界の流れや、私個人としては、「ここをもうちょっと、こうしてあーして設計した方が良いのになー」って言う部分は有るんですけれどね。
後、80’sと書きましたが、今のHR・HMシーンに十分通用するトーンを持っている事だけは追記しておきます。
埼玉県在住のT様、本当にご依頼有難う御座いました。同時にSuper Wide-Range Cableもご購入頂き、この時のT様の評価を頂いた事がきっかけになって、SWRCの一般販売を開始する決断をしました。そんなチャンスを下さったT様には本当に感謝しております。
また何か有りましたら、些細な事でもご連絡頂ければ幸いで御座います。
本日はここまで!
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