因みにこのBLOGは掲載順に作業しているのではなく、有る程度資料として書きたいなと思った時に更新するスタイルですので、何年も前に作業した物が記事になっていたりする事が有ります。そんな訳で、この記事は既に施工から1位年以上経ってるのでは無かったかな?と言った所です。
さて今回のBURNYは、老舗ギターメーカー、フェルナンデス社が企画生産するエレキギター&ベースのブランドの一つです。フェルナンデス社内でのブランドの住み分けは、FENDERスタイルのギターをFERNANDES、GIBSON系のギターをBURNYという位置づけでブランドを仕分けてあり、今回のモデルはギブソン系レスポールタイプなのでBURNYと言うブランドがヘッドに入っていました。
これは国内の楽器ブランドホルダーには良くある話なのですが、フェルナンデス社自体は自社工場は持たず、所謂ブランドホルダーとして企画を行い、それを国内外の実生産工場が製作を請け負うと言うスタイルの「商社」が最も業態として表現に適している会社さんですね。実生産工場はOEM契約の内容や条件によって使い分けているかと思われます。
そんな中で、今回の楽器は随分古く恐らく80年代後半に製作された物だろうと想像されます。既にフロントピックアップが無い上、リアは正体不明のPUが取り付けられており、電装系も誠にパンクな仕上がりですね。またヘッドアングルの付け根にネック折れが見受けられました。これはオーナーさんも随分前から気が付いていたのですが、使わない楽器のだった為、ひびが入ってから随分の時間が過ぎてしまっていた様です。
写真では解り難いですが、ヘッドを手で押すと口が開く程度には木部にクラックが入っています。その為今回は補強を入れるプランにて修理を行います。
今回のネック折れ修理の手順は以下の通りでプランニングを行いました。
@一旦ひびが入っている割れた傷口に接着剤を流し込み圧着
A補強木材挿入用スロットをトリマーで切削加工を行う
B補強材を作成
C補強材スロットに接着
D補強材を成型後、部分塗装にて補強材を目隠し
さて早速ですが、順番に行きましょう。
先ずは注射器やヘラ等を使い、一番破損の深い所まで接着剤を送り込み、木材同士の毛細管現象などの自然物理現象にも頼って作業を進めていきます。今回使用したのはタイトボンドですね。接着剤については過去に下記のリンクで詳しい内容を記載した事が有るので、合わせてご参照頂けると幸いです。
グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html
ここまでの作業が終わったら、次はスロット掘り作業ですね。
こんな感じでヘッドの羽子板側角度に合わせて木部切削用電動工具のトリマーを使ってスロットを掘ります。これは見た目より大変危険な作業ですので、自分でネック折れを直そうと挑戦するのは出来るだけ避けた方が良いかと思います。指を飛ばしてギターが弾けなくなったら元も子もないですしね。
因みに同様の修理については過去にも記事を書いてまして、
S氏LPネック折れ修理(オービルbyギブソン)
http://repairtech.seesaa.net/article/96954630.html
こちらの記事も合わせてご参照いただけると幸いです。切削の理屈や補強の話など、技術的にベーシックな事を記載しております。
次に出来あがったスロットに対して埋める補強材を作成し、それを埋めていきます。
これは、ローズウッドとマホガニーの2プライ構造になってまして、マホガニーのみの補強材より強度を上げる為、この様な工作を行いました。ネックに掘られたスロットよりより若干、、コピー紙一枚分位、厚めに作成し、木殺しを行ってからスロットに接着します。今回接着に使用したのは上記と同じタイトボンドです。
木殺しとは何かと言う話ですが、まあちょっとした雑学的に少し記載しておきます。
木殺し(きごろし)は木工技術の一種で、釘を使わずに建てる寺社仏閣など、柱に組み木細工を施す事をホゾ組みと言うのですが、仮組を行う際、塩梅を見やすい様に、ホゾを玄翁等で叩き、木の繊維を圧縮して組みやすくしておきます。その後組んだ後、建築物で有れば時間が経つと湿度等で木の復元力によってホゾが膨らみ、接合力が強化される効果が有ります。
この様に木の繊維を断たない様に圧縮する事を木殺しと呼び、大工さんの世界では普通に使われる建築用語ですね。
因みに今回の場合、叩いた所は最終的にタイトボンドなどの水分を含むと膨らんで元に戻ります。その力を利用して、内部から膨張という現象を発生させ、スロットと補強材を密着させる訳です。この木殺しの作業をタイトにすればするほど乾燥後の木部強度が上がります。ここでポイントになるのは、一体どれ位木殺しのマージンを取るかと言った所で、その目安が私の感覚ではコピー紙一枚分と表現しました。あまりに木殺しのマージンを取り過ぎた上で、木殺し後の寸法を合わせると(つまり潰す量が多い)、今度はホゾの復元力で元のネックを割ってしまうなんて事も有りますので、程々の良い塩梅って言う感覚が必要な作業になります。
木材の復元力がどういった物か解りやすい動画が有りましたので、参考にリンクを貼っておきます。
<不思議な板と釘はどうやって作成されたのか?>
全然別の話ですがついでに。
参考と言う訳ではないですが、金輪継と言う工法が有りまして、これは恐らく木工技術の中では最高峰に近い接ぎ木の仕方有ります。
他にもこのような動画は沢山有りますが、見るにつけもっと勉強せねばなあ等と思う次第。
色々この手の資料を集めて分析して練って固めてってやっては居るんですが、その内、何か新しい事が見つかるかもしれませんね。
接着が終わったら、補強材の整形〜素地調整〜目止〜部分塗装までを行います。今回は部分塗装になるのですがブラウンバーストで目隠しを行います。よく乾燥させたらトップにラッカークリアを掛けて行きます。
今回はフレットの擦り合わせ及びナットの交換、電装系のフルリフレッシュもメニューに入っておりましたので、それらの作業も進めていきます。もちろん塗装が乾いてからですけどね。
この辺りは元の状態がそれほど悪く有りませんでしたので、割と素直に短時間で収まりました。
今回はPUはお客様ご支給の物でしたので、指定通り組み込んでいきます。
その後、クリアを研ぎ出して鏡面仕上げを行い、、
部品を組み込んで、補強部分の様子を見て問題が無ければ、完成です。
ブラウンバースト部分は実物はもっと自然な感じなんですけども、中々写真ではわかり難いですね。。
今回の修理は結構時間が掛ってしまいましたが、部分塗装用に新しいピースコン等資材投入のきっかけになりましたので、いい経験をさせて頂きました。
一昔前は今回の様な古い楽器が沢山廃棄されていた様に思いますが、その後リサイクルショップ文化やオークション文化が根付いた事も有り、廃棄を免れたケースも昨今では増えて、一般的に知られるブランドの楽器で有れば、どんな状態でも¥1000位の値段が付くと言う状態に市場が成熟した感が有ります。但し、そのような楽器の場合は状態が悪く、今回の様な破損を起こしている物が恐らく沢山有るのではないでしょうか。少し話は横道にそれますが、ある引っ越し屋さんに聞いたところによると、引っ越しで不用品を引き取る際に、ギターと言うのは割合よく有るそうで、こう言った業者さんあたりから大量に廃棄されたり、リサイクルショップに流れたりする事が有るんだそうです。
そんな話を聞くとつい勿体ないよなあと思うのですが、私だけでは全てを救って市場に戻すのは物理的にも時間的にも無理ですし、そもそも市場原理の話も有りますので、、こうして古い楽器を更生させて行くと言うご依頼に関しては、ある種オーナー様より熱が入ってしまいがちです。これは私個人がこう言った事を天職と感じているからかもしれませんね。
と言った所で本日はここまで。
大阪府T様ご依頼有難うございました。
引き続きのご愛顧のほど宜しくお願い致します。
当方も、70年代か80年代初期のBurnyのジャンクギターのネック捻じれを直したくていろいろな方面に聞きまわっているのですが、結局、OEM製造者の東海楽器のご厚意に感謝してネック交換してもらうしかないのではないのか(ただしその場合ヘッドのBurnyロゴは残せない)というようなところに追い詰められてしまいました。
症状は、重度(角度5度ぐらい)の左向き捻じれですので、アイロン治療も焼け石に水では?と診断されています。
何か良いお知恵はないでしょうか?
お世話になります。
最近はSNSにかまけており、コメントに気が付きませんでした。
謹んでお詫び申し上げます。
現状お伺いしている内容で、5度もねじれているとしたら、ネック交換しか方法は無いと思慮します。ネックリセットをしてオールリフィニッシュを行うのが最良の手段かと思います。
ロゴについては、当方では何ともコメントは出来ませんが、ヘッドベニヤの再利用をしてみてはどうでしょうか?それで有れば、あくまで修理品扱いで尚且つ贋作作成には該当しないと思います。
ただ、作業費は安くは無いと思います。
普通の工数を考えて見たら、
@ネック抜き
A指板/ネック作成
Bボディー側修正
Cネック差し
E指板貼り&フレット打ち
Fヘッドべニア移植
Gリフィニッシュ
H再セットアップ
一項目、普通のリペアショップの料金表を積算したら20万ぐらいになりますね。
となると製造元が固定費内作業で行う作業の方がはるかに安くなるとも言えます。
上記宜しくお願い致します