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2015年01月30日

ネック折れのお問い合わせについて

先日レスポールのネック折れ修理(http://repairtech.seesaa.net/article/412745398.html)に関して記事をアップした所、ネック折れについてのお問い合わせが沢山入ってきまして、そのメールを読んでおりますと、意外にプレーヤーさんの間で、ネック折れの原因や木部修理に関し、間違った認識を持っていらっしゃる方も少なからずおいでの様です。それらについての回答を含め少し私なりの考えを、記事にしたいと思います。

まず、ネック折れの原因として多いのはギブソン系等のヘッドアングルがついているギターを転倒させてしまった際に起こりやすい破損です。

前回の記事の様に木部繊維が裂けてしまったり、ヘッドが取れてしまう程で有ったり、症状は様々ですが、 「折れたらまず初動としてはどうするか?」と言う事。
よく自力で直そうとして瞬間接着剤だらけにされてしまったギターをなんかを見かけますが、これは殆どの場合NGです。そのプレーヤーさんが別の意味で職業的職人(外科医さんとか大工さんとかETC..)さんであったなら、見た目はともかく接着はできるかもしれませんが。。まずは実績の有るリペアマンに見て貰ってください。

そして折れたら速やかに次の作業をお願いします。

@ヘッドがまだ繋がっている場合。
弦を外します。弦のテンションが掛ったままですと、破損部から侵入した湿気で木部が変形し癖が付きますので、弦の張りっぱなしはダメです。また昨今のギブソンのレギュラーラインのギターやそのコピーモデルはヘッド表面のツキ板に樹脂製のヘッドプレートを使用している事が有り、このプレートに癖がついてしまうと、修復が困難です。又折れた木部が湿気を帯びてしまうと木の膨張で折れた面が修理時に密着しなくなりますので、サランラップなどを巻いて湿気の侵入を防いで頂けるとありがたいです。

Aヘッドが取れてしまった場合
同じく弦を外し、破断面を崩さない様に注意の上サランラップで湿気を遮断して下さい。
また破片は出来る限り集めて同じくラップで包んで下さい。

ネック折れは破損規模にもよりますが、対処が速ければ速い程、綺麗に修復できますので、事故が起きたら可及的速やかにリペアマンの元へ持ち込んで下さい。

次にご質問の中で出てくる事が多いのですが、破損部を接着する事によっておこる音色の変化についてですが、結論から厳密に申し上げますと、音色の変化は起こり得ます。

といいますのも、ネック折れその物を修理する際に多かれ少なかれ接着剤を使用しますし、修理規模によっては、別の補強材を埋め込んでいきます。これは元々の状態を構成していた木部状態や剛性の変化を意味し、ここから導き出される答えは、振動体であるネックの剛性や質量が変われば音質が変化すると言う事です。

逆説的に行けば補強が少ない程、音質の変化は少ないと考えられます。

別の側面で行けば、ネック修理後補強力が強い場合、弦を張った際にヘッド起きの量が変わり、音色が変化する事もあり得ます。

但し、これらは聞き分けられるレベルかどうかはプレーヤーさん次第です。
リペアマンは基本的に破損してからその楽器を触る事が多く、その個体の音色を把握してない事が殆どです。元はこうであっただろうなあと言う所まで修復の努力はしますけれども、どうしても変化の量についてはプレーヤーさんの感覚に委ねられる部分となります。正しい修理がおこなわれていれば修復歴が有るからと言って音が悪くなる事はありません。

次に接着強度ついてですが、セットネックのエレキギターやアコースティックギターなどは構造上、殆どの部分が接着剤で組み立てられます。正しく接着されていれば自然に分解すると言った事が起こらない事と同様に、ネック折れの修理も基本的な強度は同じく、自然に分解するような状態ではありません。通常はもっと強固に接着修理され、又補強材の兼ね合いもあり、ネックの剛性その物は向上している事が殆どです。

もしもネック折れ部分の木部の接着が剥がれたとなったら、それは正しい接着剤の使い方ではなかったか、正しい修復法ではなかったと考えられます。正しい修理法がなされた機体で、もし再度同じ事故が起きた際は最初の修理部位の接着面ではなく、すぐ近くの別の部位から破断したり、または正反対のヒールから折れたりする事が殆どです。

そう言った所から接着強度については、ご心配いただくよりも、その後、扱いの方を丁寧にして頂ければと思います。

接着剤の使い方については別途記事を書いておりますので、そちらもご参照いただけると幸いです。
グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html

次に、修理内容に関してですが、修復方法は幾通りもありまして、破損状態と補強の具合と予算と仕上がりのバランスによって変わってきます。これは有る程度現物次第ですので、お気軽にご相談下さい。

私共で過去にネック折れの修理を多数担当させて頂きましたが、どの件もハードな使用に耐えられる様、一生懸命知恵や色んな手法を使って直します。修理を行った楽器の中にはプロのミュージシャンがツアーに持って出かけるものも少なくないですが、全く問題なく使えています。

そもそもプロ/アマチュアを問わずお客様としては楽器が折れてしまうと相当ショックな訳で、極力そのショックを和らげて、その楽器をまた弾ける状態に戻すのが私共の仕事です。これはプレーヤーさんがどんな方であれ変わる事のない姿勢です。

と言った様な所で本日はここまで。


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2015年01月27日

実験用リアンプDI製作

今回は私共で使用する実験用モジュールでリアンプDIを製作しましたので、それを記事にしたいと思います。

リアンプとは広義の意味で「一度ライン録音したトラックをギターアンプ等で再生し、スピーカーから出た音をもう一度マイク録音する」際に使用されるレコーディング手法です。今回はその際に使用されるライン信号のインピーダンス変換機としてのDIを作成しました。これを「リアンプDI」「リバースDI」、古い方なら「逆DI」なんて呼ぶ事もありますね。

通常ラインによるレコーディングされたトラックはアンプによる録音トラックに比べると、空気感の無いデッドでフラットで味気ない音像になる事が殆どです。その場合、そのトラックの信号レコーダーやPCから出力、実際の楽器アンプに入力して、音色を調整しマイクによる録音を行う事をRE:AMP(りあんぷ)と呼ぶのです。

但し、この際に要注意なのが、レコーダーや例えばPCの出力インピーダンスとアンプ入力のインピーダンスが合わず、アンプ側が小/過入力になってアンプが持っている本来の音色を生かした音作りが出来ない・・つまりエレキギターやギターアンプが本来持っている音色にはならないと言った問題が起こります。

例えば、インピーダンスマッチングが悪い為、アンプやエフェクターが歪まない、ギター用ディレイの掛りが変になるだとか・・一般的なギター等の音色とはかけ離れた物になってしまう事が多く有ります。

そんな時にカントリーマンに代表されるトランス型D.Iの内部配線を改造してアンプ入力レベルに調整して、アンプを鳴らし切れる様な機材を作った・・そしてマイクで再録したと言った手法が始まりだったそうです。

この文章にすると複雑な工程がなぜ行われるようになったかは、諸説ありますが、代表的なお話を。

ライン録音と言うのは実際に音を出さない分、昨今ではヘッドホンとインターフェースとレコーダーが有ればすぐに録音できる気軽さが有りますが、これだけでは一番重要な「空気感や雑味」が抜け落ちてしまっています。そこはそれで、作曲やアレンジ時には素の音で録音して置き、その素の音を大きな音が出せるスタジオに持ち込んでリアンプ処理をして音色を詰めて改めてマイクで録音と言う作業になります。(他の手段でアンプシミュレーターを使う手法もありますがここではあくまでリアンプの話に絞って進めます)

この利点は大きく分けて2つ

@ライン録音時は自宅等でゆっくり時間を掛けて、心行くまでフレーズの修正が出来る為、最高に弾き切れたフレーズの生データに対して音色を後からDAWや卓やアンプやエフェクターで調整できる。

リアンプについて小林信一氏が解説する動画が有りましたので、引用しておきます。
これはあくまでDAW上で作業をするデモ動画ですが、勿論実機でも理屈は同様です。

Aレコスタの限られた時間で、音作りのみ集中して行う事が出来る。
もう一つ突っ込んで言うならば、その再生するアンプ用スピーカーでも、録る為のマイクでも音は変わるので、それらをある種のフィルターとして利用する事も出来ます。

特に再生するスピーカーというのは重要で、エレキギターの例では、ギターアンプに戻した場合、遙かにギターに適した再生域の音色を作り、本来ギターが持つレンジの音にマイク録音による空気感という自然さが加わることで、ライン録音の不自然さを払拭出来る訳です。

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なぜうちがこの様な物を作る事になったかと言うと、現在、作業進めているエフェクター製作プロジェクトが有りまして、今回の場合ですとその実験の為にPCからライン録音のギターを延々ループで流し続け、リアンプをしてから、エフェクタの回路に入力し回路を弄って追い込んでいくと言う作業に必要不可欠でした。今後使用する商材の動画撮影等にも使用できると言う事で、今回急遽有り物で作った機材になります。

話は長くなりましたが、実物を見るとなんともまあ簡素な有り物ジャンクの寄せ集めです。
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こんな感じで脱力系ですね。

今回この為に買い増した物はトランジスタトランス一個だけですから、ジャンクもそれはそれで貯め込んでおけば又別の機材に生まれ変わるという好例かと。

相変わらずキャノンジャックのケース加工に手を焼きます。材厚が薄いので今回はまだマシですが、通常のアルミダイキャストのエフェクタケースだったら、やる気が全く出ません。

入出力は下記の通り
入力:XLRメス又は3.5φフォンジャック(スイッチ切り替え型)
出力:フォンジャック/アンバランス出力(ボリューム調整可能)
グランドリフトSW付き

本当はもう一個スイッチが有ればフェイズスイッチをつけたかったのですが、廃品再利用の悲しい所、手持ちでは良いサイズのものが見つかりませんでしたし、ラベルは参考で刺青サイトを見ている内に適当に遊んでいたら出来あがったような感じ。何処まで行っても自分用だから適当でいいのです。

と言った所で完成画像でしたが、今回の物は全くオリジナル設計ではなく、とある電子関係の教科書に載っていた物を作ってケースに突っ込んだだけと言う代物なので、そんなにおおっぴらにする物でもないんですが、そもそも、その教科書に載っている記事も元祖リアンプユニット発売元のA社の製品を解説する物だった為、本家と同様の遜色ない音色が出ています。リアンプについてTwitterのDMでご質問を頂いたのでこの様な記事にしてみました。

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後日、某練習スタジオにてリアンプをしている様子がこの画像です。

ちょっとわかり難いですが、今回製作したリアンプユニットにライン録のエレキギターの信号を通した後、マーシャルアンプに入力し、スピーカーキャビネットから出力された空気感を含んだ実際のアンプの音として、ノートPCに録音している風景です。

そんな所で本日はここまで。
ラベル:リアンプ
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2015年01月23日

フジゲン社製 JAZZ BASSモデル PU交換作業

今回はY様よりフジゲン社製JAZZ BASSモデルのPUの交換作業をご依頼ただきました。

今回の楽器の製造元のフジゲン株式会社は楽器業界の重鎮的な楽器製造メーカーですね。古くはグレコやハートフィールド、フェンダージャパンやそも本家フェンダーその物を作って輸出すると言った様な本当に技術及び生産製品の評価が高いメーカーさんですね。色んな情報から行くと最近ではトヨタ自動車のレクサスなどのウッドパネルの製造やアイバニーズの上位機種やG&Lの楽器を製造していたり、また、日本に流通しているギブソンの楽器の検品も行っているんだそうです。

そんなフジゲンの自社ブランドで展開している楽器が今回のBASSになります。
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この様な感じで非常に丁寧に作られた楽器でした。
今回のメニューはPU交換/電装系引き直し/ノイズ処理のやり直しと言った様な感じです。

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ざっくり見て行くとPUが国産なのか韓国製か解りませんが、あまり品質が良いとは言えない物が搭載されておりました。国産の楽器は電気パーツについて、安価な物を使う傾向が有りまして、結果コスト削減を行っております。コスト以外の理由では、楽器弾き特有の好みの問題が有り、あくまでPU等は交換前提で最初は低グレードの物が搭載される事が多く、その浮いた原価分を木部加工の費用に回すと言ったイメージを持って頂けると良いかと思います。

それでは作業に入ります。
今回は電装系部品は全てご支給頂いておりましたので、ご指定のパーツで組んでいきます。
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今回はコントロールパネルを全てユニット交換して入れ替えてしまうと言ったご依頼でした。支給頂いた部品はCTSポットやオレンジドロップ、スイッチクラフトのジャックと言った所謂ハイエンド品となります。丁寧に組み込んでユニット化してしまいます。

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その間に、ボディー側のシールディング加工を行います。この塗料が乾けば組み込めるような状態ですね。

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今回搭載するのはバルトリーニ社製のJAZZ BASS用PU(品番で言うとJ-BASS)になります。
これは一世を風靡したモデルで、スタジオシーンで非常に人気が有り、今でも根強いファンが居るモデルですね。このPUとTCTと言う楽器内蔵型プリアンプを組み合わせてマーカスミラー的なモデルに仕上げるのが流行ったりもしました。個人的には見た目とか音の質感が大好きだったりします。

そんなPUを今回はゴトー社製スポンジスプリングを介してパッシブでマウントしていきます。

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とまあこんな感じでマウントして、楽器を組み直して調整したら終了です。
終了後の画像が無いのですが、イメージだけでも伝わればと思います

音的にどんなのかと言うと、、これは参考動画なのですが、、

どこかの外人さんの動画です。確かにこんな感じの音でした。

こう言った国産楽器には本当に品質が高い物が沢山有るのですが、どうにも電気パーツでその魅力がスポイルされているケースが多々あります。理由は上にも付記しましたが、メーカーが色んな理由から楽器の最終調整をユーザーの手に委ねてしまっているのですね。そう言った所を鑑みると、電気パーツを組み替えて自分好みの物を作れると言い換えられるかも知れません。ですのでまずは良い入れ物(キャンバス)を手に入れるというのが、現在の国産楽器との正しい付き合い方なのかなとも思います。

そんな所から電気系に何かちょっとした不満が有る方は、上記の様な作業をしてみたらいかがでしょうか?全く別の感触の楽器に生まれ変わるかもしれませんよ。大抵の楽器はそんな可能性は十分に秘めています。

Y様ご依頼ありがとうございました。
またのご用命お待ちしております。
ラベル:JAZZ BASS PU交換
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2015年01月22日

BURNYブランド製 レスポールモデルのネック折れ改修

今回は大阪府T様よりご依頼頂きました、BURNYブランド製 レスポールモデルのネック折れ改修作業をご紹介します。
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因みにこのBLOGは掲載順に作業しているのではなく、有る程度資料として書きたいなと思った時に更新するスタイルですので、何年も前に作業した物が記事になっていたりする事が有ります。そんな訳で、この記事は既に施工から1位年以上経ってるのでは無かったかな?と言った所です。

さて今回のBURNYは、老舗ギターメーカー、フェルナンデス社が企画生産するエレキギター&ベースのブランドの一つです。フェルナンデス社内でのブランドの住み分けは、FENDERスタイルのギターをFERNANDES、GIBSON系のギターをBURNYという位置づけでブランドを仕分けてあり、今回のモデルはギブソン系レスポールタイプなのでBURNYと言うブランドがヘッドに入っていました。

これは国内の楽器ブランドホルダーには良くある話なのですが、フェルナンデス社自体は自社工場は持たず、所謂ブランドホルダーとして企画を行い、それを国内外の実生産工場が製作を請け負うと言うスタイルの「商社」が最も業態として表現に適している会社さんですね。実生産工場はOEM契約の内容や条件によって使い分けているかと思われます。

そんな中で、今回の楽器は随分古く恐らく80年代後半に製作された物だろうと想像されます。既にフロントピックアップが無い上、リアは正体不明のPUが取り付けられており、電装系も誠にパンクな仕上がりですね。またヘッドアングルの付け根にネック折れが見受けられました。これはオーナーさんも随分前から気が付いていたのですが、使わない楽器のだった為、ひびが入ってから随分の時間が過ぎてしまっていた様です。

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写真では解り難いですが、ヘッドを手で押すと口が開く程度には木部にクラックが入っています。その為今回は補強を入れるプランにて修理を行います。

今回のネック折れ修理の手順は以下の通りでプランニングを行いました。
@一旦ひびが入っている割れた傷口に接着剤を流し込み圧着
A補強木材挿入用スロットをトリマーで切削加工を行う
B補強材を作成
C補強材スロットに接着
D補強材を成型後、部分塗装にて補強材を目隠し

さて早速ですが、順番に行きましょう。
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先ずは注射器やヘラ等を使い、一番破損の深い所まで接着剤を送り込み、木材同士の毛細管現象などの自然物理現象にも頼って作業を進めていきます。今回使用したのはタイトボンドですね。接着剤については過去に下記のリンクで詳しい内容を記載した事が有るので、合わせてご参照頂けると幸いです。

グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話
http://repairtech.seesaa.net/article/398379205.html


ここまでの作業が終わったら、次はスロット掘り作業ですね。
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こんな感じでヘッドの羽子板側角度に合わせて木部切削用電動工具のトリマーを使ってスロットを掘ります。これは見た目より大変危険な作業ですので、自分でネック折れを直そうと挑戦するのは出来るだけ避けた方が良いかと思います。指を飛ばしてギターが弾けなくなったら元も子もないですしね。

因みに同様の修理については過去にも記事を書いてまして、
S氏LPネック折れ修理(オービルbyギブソン)
http://repairtech.seesaa.net/article/96954630.html
こちらの記事も合わせてご参照いただけると幸いです。切削の理屈や補強の話など、技術的にベーシックな事を記載しております。

次に出来あがったスロットに対して埋める補強材を作成し、それを埋めていきます。
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これは、ローズウッドとマホガニーの2プライ構造になってまして、マホガニーのみの補強材より強度を上げる為、この様な工作を行いました。ネックに掘られたスロットよりより若干、、コピー紙一枚分位、厚めに作成し、木殺しを行ってからスロットに接着します。今回接着に使用したのは上記と同じタイトボンドです。

木殺しとは何かと言う話ですが、まあちょっとした雑学的に少し記載しておきます。

木殺し(きごろし)は木工技術の一種で、釘を使わずに建てる寺社仏閣など、柱に組み木細工を施す事をホゾ組みと言うのですが、仮組を行う際、塩梅を見やすい様に、ホゾを玄翁等で叩き、木の繊維を圧縮して組みやすくしておきます。その後組んだ後、建築物で有れば時間が経つと湿度等で木の復元力によってホゾが膨らみ、接合力が強化される効果が有ります。

この様に木の繊維を断たない様に圧縮する事を木殺しと呼び、大工さんの世界では普通に使われる建築用語ですね。

因みに今回の場合、叩いた所は最終的にタイトボンドなどの水分を含むと膨らんで元に戻ります。その力を利用して、内部から膨張という現象を発生させ、スロットと補強材を密着させる訳です。この木殺しの作業をタイトにすればするほど乾燥後の木部強度が上がります。ここでポイントになるのは、一体どれ位木殺しのマージンを取るかと言った所で、その目安が私の感覚ではコピー紙一枚分と表現しました。あまりに木殺しのマージンを取り過ぎた上で、木殺し後の寸法を合わせると(つまり潰す量が多い)、今度はホゾの復元力で元のネックを割ってしまうなんて事も有りますので、程々の良い塩梅って言う感覚が必要な作業になります。

木材の復元力がどういった物か解りやすい動画が有りましたので、参考にリンクを貼っておきます。

<不思議な板と釘はどうやって作成されたのか?>

全然別の話ですがついでに。
参考と言う訳ではないですが、金輪継と言う工法が有りまして、これは恐らく木工技術の中では最高峰に近い接ぎ木の仕方有ります。

他にもこのような動画は沢山有りますが、見るにつけもっと勉強せねばなあ等と思う次第。
色々この手の資料を集めて分析して練って固めてってやっては居るんですが、その内、何か新しい事が見つかるかもしれませんね。

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接着が終わったら、補強材の整形〜素地調整〜目止〜部分塗装までを行います。今回は部分塗装になるのですがブラウンバーストで目隠しを行います。よく乾燥させたらトップにラッカークリアを掛けて行きます。

今回はフレットの擦り合わせ及びナットの交換、電装系のフルリフレッシュもメニューに入っておりましたので、それらの作業も進めていきます。もちろん塗装が乾いてからですけどね。

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この辺りは元の状態がそれほど悪く有りませんでしたので、割と素直に短時間で収まりました。

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今回はPUはお客様ご支給の物でしたので、指定通り組み込んでいきます。

その後、クリアを研ぎ出して鏡面仕上げを行い、、
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部品を組み込んで、補強部分の様子を見て問題が無ければ、完成です。
ブラウンバースト部分は実物はもっと自然な感じなんですけども、中々写真ではわかり難いですね。。

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今回の修理は結構時間が掛ってしまいましたが、部分塗装用に新しいピースコン等資材投入のきっかけになりましたので、いい経験をさせて頂きました。

一昔前は今回の様な古い楽器が沢山廃棄されていた様に思いますが、その後リサイクルショップ文化やオークション文化が根付いた事も有り、廃棄を免れたケースも昨今では増えて、一般的に知られるブランドの楽器で有れば、どんな状態でも¥1000位の値段が付くと言う状態に市場が成熟した感が有ります。但し、そのような楽器の場合は状態が悪く、今回の様な破損を起こしている物が恐らく沢山有るのではないでしょうか。少し話は横道にそれますが、ある引っ越し屋さんに聞いたところによると、引っ越しで不用品を引き取る際に、ギターと言うのは割合よく有るそうで、こう言った業者さんあたりから大量に廃棄されたり、リサイクルショップに流れたりする事が有るんだそうです。

そんな話を聞くとつい勿体ないよなあと思うのですが、私だけでは全てを救って市場に戻すのは物理的にも時間的にも無理ですし、そもそも市場原理の話も有りますので、、こうして古い楽器を更生させて行くと言うご依頼に関しては、ある種オーナー様より熱が入ってしまいがちです。これは私個人がこう言った事を天職と感じているからかもしれませんね。

と言った所で本日はここまで。

大阪府T様ご依頼有難うございました。
引き続きのご愛顧のほど宜しくお願い致します。
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2015年01月17日

D.N.A PURPLE PHASE 改修作業

今回は成田在住のベーシストO様よりエフェクタ修理のご依頼を頂きました。

今回の症状はどういった物かと言うと、エフェクトが正常にオンにならない事や、そも電源が入らないと言った状況で、一般的には不完動品と呼ばれる状態でした。ご本人さんはこれをベースとファズに繋いでエクスペリエンスな音像でライブをやっている現役プレーヤーさんなんですが、フットスイッチの症状でオンオフが効かなくなるにつれ接点復活剤をフットスイッチに流し込み、だましだまし使っていたようですが、この度、完全に駄目になったとの事でした。

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こんな感じのラメ入りパープルなちょっとケバイ印象の筺体ですね。

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今回特に悪さをしているのがこのスイッチふたつですね。また、この電源回路の入力部分のダイオードも焼損していました。多分極性及び電圧を間違えたアダプタを使用してしまったんじゃないかと思うのですが、、そんなこと位で焼損するのはちょっとおかしいので色々細かく見ながら作業を進めて行きます。

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と言っても部品を交換していく事で修理その物は完了ですから、そんなに難しい事は有りません。
今回一つだけフェイザーの心臓部に当たる8ピンクワッドのICが電源のトラブルに巻き込まれて死んでおり、それをとある筋で海外通販して入手〜交換と電解コンデンサの幾つかを交換してあります。

今回交換した物
@フットスイッチ2個
A回路保護用電源ダイオード
Bフェイザー用8ピンクワッドIC
C電解コンデンサ数個

で、この手の作業って気が付くと写真を撮り忘れてるので、この位しかないのですが、実験で修理後の動画を撮ってみましたので、資料的に掲載してみます。



あまり他に例を見無い質感のフェイザーでした。上質な所から変態的な使い道まで調整の幅が広く、一時人気が出たのも頷ける様な音色の代物でした。

と言った様な所で本日はここまで。

千葉県O様
ご用命有難うございました。またのご愛顧お待ちしております。
ラベル:フェイザー D.N.A
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2015年01月14日

'80S'Yesteryear Charvel SOLOIST

今回横浜市のS様より古いシャーベル社製ソロイストの修理のご依頼を頂きました。
過去の修理例の幾つかをBLOGに記載をしておりますので、古いジャクソン&シャーベルの電装系修理の仕事が入る事が多くあります。今回のお客様もそのような経緯でご依頼を下さったお一人でした。

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今回のモデルはソロイストなんですが、お客様に手によりストライプのデコレーションが施されていて、ケーラー社製ブリッジが搭載されているスルーネックモデルですね。症状としては音が出ないと言った内容です。

この電装系が往年のジャクソンのサーキットが採用されています。が、配線がかなり。。な事になっておりますので、綺麗に再配線を行い、調子を崩しているJE-1200ミッドブースター回路を修復する作業となりました。

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こんな感じに全ての配線を摘出します。以前にもこう言った記事の際に書きましたが、量産メーカーでライン作業による生産の場合、アッセンブリーは組込前にプレ配線されているのが通常です。

また特にアクティブサーキット物ですと配線の本数等も増え、モデルごとに微妙に違うレイアウトにも有る程度対応しやすい様に配線を長めに設定されている事が多く、生産効率を中心に考えた場合、コントロールレイアウトに合わせて配線を切り詰めるといった作業は殆ど行われません。その為、長さの余った配線材はキャビティーに無理やり詰め込まれて必然的にグチャッとした配線になりがちなのです。

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次の作業はいつもの通り、導電性塗料によるノイズシールディング作業を行います。
アクティブサーキット搭載の楽器はこの作業をきっちり行っていないと、却ってノイズを増幅させてしまう事が有りますので、必ず行います。

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今回搭載されていたPUはジャクソンMODEL6用の初期型PUセットでした。今や貴重なPUですね。

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この貴重なPUをメンテナンスしてから組み込みます。

その後、懸案の音が出ないとされたJE-1200の方を改修していきます。
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いつも通り細かく見て行くと、ブースターボリュームへ出力する配線部に基板のパターン剥がれが有り、回路が正しく動作しない状態でした。
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今回はパターンを復活させる事は出来ませんので、画像の通り配線を延長して部品に直接半田付けを行いました。
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その後、基板上の部品をチェックし、消耗しているパーツを交換して改修完了です。
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生産から20年以上経つと、こう言った回路に限らず電解コンデンサは大概駄目になってますね。
全て新品のコンデンサに入れ替えます。これに合わせてOPアンプも交換です。8ピンのデュアルパッケージの物で有れば、JRC5532等の入力インピーダンスのマッチングが取り難い品種でない限り、大体どの様な物を使っても音自体は出ます。後は音色の落とし込みについては今回はJRC4558DDと言うローノイズの物に変更しました。

そして楽器に戻し、再配線をし直して完成です。
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こんな感じですね。当初の状態から比べて頂けると一目瞭然ですが、とにかくロス無く綺麗に配線を行いました。

これにて完成です。
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今回の作業は難易度その物は高くないのですが、有る程度電気回路の知識とトラブルが起きやすい部位を経験則で知っていないと対処できない内容でした。
このBLOGをご覧の方で、修理の方法をお教えて欲しいと言ったお問い合わせを頂きますが、こればっかりは破損の内容が各々で違いますので、実際は実機を見ないとなんとも言えませんけれども、有る程度の事で有ればお答えできますので。是非メールフォームよりお問い合わせください。

過去の記事は次の通り
ジャクソンソロイストJE-1200電気系改修
80'sシャーベルMODEL6の電装系〜総合修理
Jackson guitars of yesteryear
80年代シャーベルの再配線作業

と言った所で本日はここまで。

横浜市S様ご依頼有難うございました。
引き続きのご愛顧のほど宜しくお願い致します。
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2015年01月12日

Duesenberg社製 D52-GT PU交換作業

今回は大阪のギタリストT様よりご依頼いただきました、Duesenberg社製 D52-GT PU交換作業を行います。

このドイツ製のこのブランドと言えば、椎名林檎女史ご愛用ギターブランドと言う事で10〜15年前ぐらいは大変人気を博したブランドでしたね。彼女の物はセミアコタイプでしたが、大変ポップなグリーンが目を引くカラーリングの楽器でした。彼女の人気のお陰か、当時、販売数がかなり多かった事や、色々調子を崩したこのブランドの楽器修理を沢山担当させて頂いたのも良い思い出です。

そんな同ブランドの物ですが、実は沢山バリエーションが有りその内の一つが今回のモデルです。

ぱっと見でいくと、単にレスポールタイプと言えばそうなんですが、これは金属パーツのほとんどがオリジナル品になってますので、開発に非常にお金が掛っているプロダクトですね。
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ロッドカバー、ブリッジ、ペグボタン、エスカッション、コントロールつまみ類は全てオリジナルプロダクトです。こう言うのはお金かかるんで、一般的な楽器メーカーは手を出さない感じです。それをちゃんとやるんだから、まあ野心的なブランドである事は間違いありませんね。儲かってるかどうかは良く解りませんがw

特に特筆すべき点はブリッジの精度ですね。この精度と剛性感はほかのバダスタイプには中々見られない物が有ります。代理店さん、これだけでも別売してくれないかなあ?

さて今回の作業メニューは、お客さまのご希望によりPU交換、配線系改修、ナット交換、後諸々メンテナンスを行うと言った所ですね。

早速ですがバラしていきます。
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1PUで3WAYレバースイッチですから、たぶん古いエスクワイヤーの様なトーンセレクターかフロントPUをシミュレーションする様な回路が組まれていると想像してました所、どんぴしゃでした。早い話、コンデンサと抵抗だけでハイとローのカットオフ周波数を調整して、あたかもフロントPUが存在している様な音を作るパッシブフィルターですね。こう言うのは使い様とでもいうんでしょうか、あんまり積極的に使う人にはお会いした事が有りません。

そんなにトーンセレクターも、良質なコンデンサが組まれていた為、音ととしては悪くないのですが、今回の回路はすべて撤去。以下の通り配線を仕込み直します。

@PUセレクターをブリッジ側の時トーン回路カット
APUセレクターをセンター側の時トーン回路生かし
BPUセレクターをネック側の時配線をオールダイレクト


とまあこんな感じでしたので、サクッと配線しちゃいます。

IMG_3715_R.JPG
フロントPUシミュレーション用コンデンサは不要となりますので撤去。それ以外は全て部品が真新しく消耗もほとんど見られませんでしたので再利用します。

因みに画像の様な国産ポットと言いますと、みなさんすぐ交換して欲しいと仰られますが、結構電気的には良質な部材なんですよ。CTSの様に堅甲無骨と言った佇まいでは有りませんが、抵抗値のバラツキもありませんし。ただ惜しいのはグリスが入って居ない為、回転軸等が消耗しやすいと言う所は有ります。それも追加工してあげればいいんですが。

そして懸案のPUですが、今回ご用意いただいたのは、、、
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セイモアダンカン製のスラッシュモデルですね。このPU一回使ってみたかったので、渡りに船って感じでした。

PU交換準備でいつものように導電性塗料を使い、ノイズレス加工を行います。
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実は元々、このエスカッションを生かしてPUの載せ替えが出来るかどうか、受注のミーティングの際にもサイズ的にかなり難しいのではないか?と想定していたのですが、、、
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実機は通常のハムバッカーサイズのP-90でした。裏面はこんな感じ。

そんな訳で、心配は杞憂に終わり通常のPUの取付用の耳を切れば普通に収まりますが、、
ただこの取り付け耳を切り取るのを一瞬ためらったのですが、相談しました所、オーナーさんから切って良し!という指示を頂きましたので、心おきなく切って取り付けました。
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こんな感じです。ばっちり嵌ってますね。

そして残りはナット交換です。
交換中の画像等があんまり残ってないのですが、この様に作業を行っております。
IMG_3716_R.JPG
こんな感じでナットの処理を終了させて、各部の調整を行ったら完成です。

完成画像を撮り忘れてしまったので残念ですが、音はと言うと純然たるレスポールサウンドと言うよりは、ブリッジが大きな要因を締めているとは思うのですが、どこかハイパワーな暴れ馬みたいな、荒々しいザクザクした音色の楽器になりました。
これはギター&ヴォーカルさんなんかだと非常に扱いやすい音色じゃないかなと思います。
勿論シグネイチャーPUだけあって、ガンズと言うかスラッシュのあの感じも出ますよ。

少し話は変わって因みにこの楽器、どうもこのプレーク(PLAK)マシーンを使って最終調整をしているというパンフレットがハードケースに入っていました。

このマシンはどういった物かと言うと、弦を張った完成品の状態で、このマシーンのオペレーションルームにセットし、ネック・フレット・ナット・ブリッジのコンディションをスキャンして数値化し、フレットおよびネックの僅かな歪を精密に切削する事が出来る、なんというか有機的なNCルーターの様な機械です。



私は実物をアメリカと日本の有るメーカー現場では見ましたが、実際には触った事もありません。どうもオペレーションその物が非常に難しい様ですが、ギブソン等大メーカー等には導入している所も増えている様でして、大体一台一千万ぐらいするんだそうです。儲かったらうちもぜひ欲しいなあとは思ってますが、まあ当分は無理ですね。。

と言った所で本日はここまで。

大阪府T様ご依頼有難うございました。
引き続きのご愛顧のほど宜しくお願い致します。
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2015年01月08日

ヘッドウェイHD-110エレアコ化加工(フィッシュマンレアアースブレンド改造を含む)

昨日に引き続き出先からBLOG更新

今回はヘッドウェイHD-110エレアコ化加工と言う事で京都府のR様より案件を頂きました。

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古いヘッドウェイと言えば国産マーティンコピーの中では名機とされ、オール単板物で有れば比較的高額で取引されているモデルですね。
近年、その古いモデルの材料が倉庫から出て来た為、小ロットのみ再生産されたんだそうですが、それも既に絶版となっていたかと思います。今回の楽器も細かく見て行くと忠実にマーティンを踏襲し、本当に良く出来ておりまして、音色の方も申し分なく、非常に豊かな音色がする楽器でした。

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今回はこの楽器にフィッシュマンレアアースブレンドと言うPUを搭載し、エンドピンジャック加工と合わせてPUの電源9V化する事となりました。

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電源ユニットはいつも通りこんな感じです。

ここの所、よくこのユニットについてお問い合わせを頂くのですが、先ず開発夜話から始めるのが良いかと思いますので、御一読いただければ幸いです。

このPUは、オリジナル状態では内部回路を駆動させる為に、一般的なボタン電池を2個直列で本体に直接取り付けられているバッテリーホルダーに納める様になっています。所がこのバッテリーホルダーはどうもバッテリーの保持力が弱いようでして、様々な振動からライブ中に電池が外れてしまう等のトラブルが私の周囲で相次いでおりました。それがおよそ8年ほど前の2006年頃でしたでしょうか。(2014年現在では、多少強くなったような気がしなくもないです)

そんな中、古い馴染みの現在はニューヨークに渡ってしまった有るギタリストの楽器にこのPUが載っており、同じ様なトラブルが有った為、なんとかならないかという相談が有り、色々考えたり、ディスカッションした結果出て来た答えが、上記のバッテリーユニットを9Vに変えてしまうという案でした。

これを実行してみますと、第一の改善目的であったバッテリーの脱落と言った煩わしさからは解放される結果となりました。また、この改造により電源が安定しますので、ダイナミックレンジが広がったという評価も初期の頃に沢山頂いたものです。

この他にも副次的に起きた事ですが、バッテリーの持ちも通常と変わらず、特殊と言えば特殊なボタン電池を使用する事を思えば、リハスタやライブハウス界隈ですぐ入手出来る9Vバッテリー化は、ことのほか利便性が良く、エフェクター等と同規格になりますのでバッテリーの使い回し出来ると言った点で沢山のお客さまに高評価して頂いたのも嬉しかった事の一つです。

そんな感じで加工サービスを始めてみると、最近はそれほど頻繁では無くなった物のコンスタントにお引き合いを頂く息の長い商品になったなあ等と思う次第。ご愛顧頂いているお客様には感謝です。

その当時書いた記事がまだ残っておりますのでこちらにリンクを貼っておきます。
http://repairtech.seesaa.net/article/17358936.html

因みに、この改造を行うと当然ながら正規メーカー保証は受けられなくなりますので、その点だけ予めご了承ください。

と言った所で、早速エンドピンジャック加工に入ります。
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このPUはエンドピンジャックと言えばこれって言うぐらいスタンダードなスイッチクラフトの物が標準で付いておりまして、オーナーさんはこれまで、PUの使い回しを行う為に、あくまでエンドピンジャックを楽器からぶら下げて使用されていたとの事。今後この楽器をメインで使用する為に木部加工に踏み切ったというのが今回のお客様のご要望です。

さてこれを楽器に直接取り付けるには、楽器側の木部加工を行わないといけません。
最初から付いているストラップを掛ける為の所謂エンドピンと言うパーツを除去していきます。
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除去してみて解った事ですが、セルバインディングのセンターにエンドピンの穴が来ておりませんので、ここは今回セルの中心に穴が来るように加工し直します。

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まずはドリルビットが逃げないように、簡単に埋め木をします。私共ではこう言った穴の拡張作業の場合は、必ず埋め木をしてから加工を行う様にして事故を起こさない様に細心の注意を払います。また埋め木に円型テンプレートマーキングをして、センターも出し直します。

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そして12φの木工用ドリルビットで穴を開け直したのが上記の写真です。

この後ジャックを取り付けたのですが、その写真だけは撮り忘れてしまいました。とは言う物の所謂エンドピンジャックを正しく取り付けただけですので、そんなに珍しいモノでは有りませんが。

その後PUを改造し電源ケーブルを増設の上、ユニットに接続できるようにして、、、
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加工作業そのものは完成です。
今回バッテリーユニットの取り付け位置は裏板の1弦側手が届く範囲としました。写真では非常に解り難いですが。。

その後、楽器本体のメンテナンスを少々行って完全完了です。

試しに弾いてみましたが、元の楽器の素性が良い為か非常にレスポンスの良い音が今回も出ました。

こんな回路ですがこれからも永くご愛用頂ければ幸いです。

京都府R様
ご依頼ありがとうございました。またのご用命お待ちしております。
posted by IRP Products at 19:44| Comment(0) | TrackBack(0) | エレアコ化関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月07日

オリジナルスシグナルプリットボックス製作

皆様のお陰で2015年も無事スタートさせる事が出来ました。
本年も何とぞよろしくお願いいたします。

さて今回の記事ですが、東京のスタジオシーンで活躍するギタリストの吉田穣氏より、エレアコ、エレキギター双方の信号の切り替えフットスイッチペダルを製作してほしいと言う依頼が入ったのが昨年の夏の終わりごろでしたでしょうか。

御本人さんは、様々なシーンに対応する為に複数本の楽器を常に使用したり、ゴダンのエレキ/ピエゾ同梱のギターなどを使用している関係上、信号ラインや配線その物が複雑に入り乱れる事を嫌う事や、利便性の問題からこの様なオーダーに思い至ったそうです。

内容をお伺いしますと2in-2outのスプリットボックスで、フットスイッチを二つ使い、シグナルを使い分けたいとの事でした。
次の通りの仕様でしたし、製作その物は問題ありませんのでお受けした次第です。

@入出力
A-IN----A-OUT
B-IN----B-OUT

A制御スイッチ
★フットスイッチAはA-OUT又はB-OUTの任意選択スイッチ
●フットスイッチBはトゥルーバイパス時はA-OUT+B-OUT同時出力
☆フットスイッチBがウェットの場合、フットスイッチAで選んだ信号のみ出力
○各々の選択チャンネルはLEDで視認出来るようにしてほしい。

とまあ、フットペダルのワンオフ製作だからこその要望が多い内容となりました。

打ち合わせてる際の手書きのメモとかはこんな感じになります。
イメージ図最終版&製作方針_01_R.jpg
極めてアナログな感じですが、まあ多かれ少なかれこんなものかな。
大事な事は肝になる点をフォーカスして絞り込んでいくって事でしょうか。

その後実際の制作に入って行きます。
IMG_3796_R_R.JPG
製作そのものは大して難しい事ではないのですが、こう言ったスプリットボックスの場合、ポップノイズが出てしまうとわざわざワンオフする意味もありませんので、極力出ない様な材料や方法を使って組み込んでいきます。とはいっても自作エフェクタ界隈ではおなじみの部材ばっかりと言えばそうなんですが。

その間に、ラベルデザインについて吉田さんと擦り合わせるのですが、、、
多色版スプリットボックスイメージ図仮カラーチャート_01.png
こんな感じフリーデザインでざっくり作ってみて、ご本人の希望に最も近い物から、完成イメージまでブラッシュアップを行います。

そしてご希望のデザインの落とし所が決まりました。
スプリットボックスデザイン最終版.jpg
紫ベースのポップな感じですね。私にもう少しデザインセンスが有れば良いのですが。。こう言った感覚勝負の物は中々難しいモノで、所謂デザイナーさんってのは本当に引き出しが多くて、別件でいつも仕事ぶりを見るにつけて、脱帽します。

こんな所で組み上げて行ったら、、完成です!
IMG_3808_R_R.JPG

スイッチ切り替えによるポップノイズが極めて小さくなるように部材を選び、配線を行い、過酷なレコーディング/ライブ現場に投入しても殆どポップノイズが出なかったというレビューを頂きました。

そんなこんなで簡単にでは有りますが製作記事は終了ですね。如何だったでしょうか。

吉田穣氏プロフィール
http://popcorestudio.com/school/minoru_yoshida.html
スタジオワークやライブワーク、ギター教室等何でも来いのナイスガイですので、もし音源製作関係者さんにご興味のある方がいらっしゃれば是非お声掛けをお願いします。

それではご依頼ありがとうございました。またのご愛顧をお待ちしております。
posted by IRP Products at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | エフェクタ関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年01月02日

2014年のご愛顧のお礼と2015年のご挨拶

遅ればせながら明けましておめでとうございます。既に幾つかの作業を開始しております。一般のお客様向けの受付は1/4よりとさせて頂きます。本年は昨年以上の受注が出来る様環境を整える所存。2015年も何卒宜しくお願い致します。

どうやったって終わらない仕事を抱えていても2014年は既に終わりで、
それでいてもやはり仕事を納めなければならなかったのですが。

これは私事では有りますが、ご報告を兼ねて。

昨年年末に世話になっていた貿易系の仕事から一時離れる事となりました。
ここに至るまでに様々なご助言、励まし等、有難いお言葉等を頂きまして誠に有難うございました。

これらに端を発した話等はさて置いて、早速既に次に向けて動き出しておりまして、既に幾つかのお引き合いを頂いており、大変恐縮している次第です。
私程度の人間でお役にたてるのであれば、ぜひご協力させていただきたい所存、新年より宜しくお願い致します。

今年を良い年にするには、妥協をせず、甘言に惑わされず、嫌な物は嫌と言う主義へ進路を変え、自分の主導を自分に取り戻す為に地盤作りや、色んな物のあり方についてもう一度取り組み直す年にしようと思っております。

さて楽器についてですが、、昨年の記事でリノベーションの話と言う話を書いたのですが、ヴィンテージは元より、工場のライン生産された物で、なんだか愛情をかけきれないな、、なんていう楽器も安易に買い換えるより、徹底したメンテをしてやれば、生まれ変わる事も度々あります。

それ以外でも、、、、最初の内は可愛がられていた物が、その内愛情が薄れて、、、綻びや風化などで見た目も機能もがた落ちになって、仕方なくそこに有るだけになっている楽器、、、プレーヤーさんなら誰しも一本や二本、身に覚えがありますよね。

そういった楽器、今年も大量にお待ちしてます! しっかり磨いて、作り変えて、生き返らせますよ!

そうすれば、楽器を通じて、演奏の道具以上の何かが獲得出来るのかもしれません。

リノベーションとは、動機や理由又はその内容は、その時々において依頼者の内包的な心の有り様を示していて、それを欲して実行する事は「物」を大事にすると言う事もさる事ながら、心に豊かな森を茂らせる栄養を欲しているとでも言うんでしょうか、そういった無形では有るけれども確かな栄養が心に蓄積できると思うのです。これは有る友人の言葉を借りれば、「粋」呼ばれる生き方の原動力にも繋がると思っています。
そう言う心に栄養を貯め込む為にも、今年も精一杯作業させていただきます。

そんな訳で、月並みながら、本年も皆様のご愛顧とご指導の程宜しくお願い致します。

2014年12月31日 IRP PRODUCTS 代表

お問い合わせはこちらから
http://i-r-p.net/contacts/

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posted by IRP Products at 19:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする