ここの所めっきり暑くなって夏らしくなってきましたが、皆様体調など崩さない様にどうぞご自愛下さいませ。
私は去年辺りから、なぜか夏の方が調子が良い状態になってまして、現在、体調・精神共に調子が良く過ごさせて頂いております。昔は夏って体調崩しやすくて大っ嫌いだったんですが。
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さて、今回はO社様より頂いたマーティンのセルバインディング剥がれ修理の記事を書きたいと思います。
全体の写真が滅茶苦茶汚いのしか残っていなかったのですが、

(サムネイルをクリックして下さい。画像が拡大します)
見たとおりマーティンのD-28ですね。
今回、実は別の案件での調整依頼でお預かりしたのですが、遠方から運送会社様を通じ入庫して来たのは良いのですが、ケースを開ける前に何かいや〜な予感がしたのですね。第六感と言う奴ですか。
恐る恐るケースから取り出してみると・・・・

写真では判りにくいですね。

セルバインディング(パーフリング)が剥がれてます・・・・
これを見た瞬間、「おいおいマジかー・・」と呟いてしまいました。
至急オーナー様に連絡を取り、発送前の状態を確認した後、各方面の善後策を色々打ち合わせた所、輸送中に起きた破損であると言う点で運送会社様の保険で修理する事になりました。
ここをご覧の皆様で楽器を良く運送される方は、必ず保険に入って下さい。輸送中に破損した場合30万円までなら補償が効きます。
とまあ、修理費用の負担の問題を解決させたら、後は修理するだけですね。
こう言った破損の原因は、セルバインディングの経年変化により多少収縮して、剥がれそうになっている所に何らかの衝撃が加わって接着層から剥離してしまった・・と考えるのが妥当な様です。因みにマーティンのリペアでは良く有る話だったりしますが。

今回の修理にあたり、まずセルバインディングを圧着する為の当て木を製作します。その辺にあったスプルース材(建材ですが)の切れ端を加工して、ボディーサイドのRに合わせて整形して製作してみました。

この当て木を利用して、こんな感じにクランプを掛ける訳です。これでセルバインディングが密着する様に当て木を調整したり、クランプの圧力を調整したり、バインディング溝を掃除して古い接着剤の除去など、色々細かい作業を行います。

バインディングが良い感じに密着する様になったら、

接着作業の本番に入ります。
この作業にはある接着剤を使うのですが、この辺は秘密にさせて下さい。(と言っても大した秘密じゃないんですが)
一番Rが急な所は当て木、それ以外は通常のマスキングテープより強度が強いクレープテープと言う物を使います。バインディングを密着させる様にデープで固定していく訳ですね。
場合によりセロファンテープを使う場合も有ります。こう言ったあたりはその時々に応じて使い分けますんで何が良いって決まってる訳じゃないんですが。

次は、バインディングが剥がれた際に破断してしまった塗装を修繕します。ラッカーシーラーで破断面の段差を埋めていく訳ですね。バック面・サイド面両方埋めていきます。画像では磨き途中ですが。
段差が埋まった後、淡いイエロークリアを部分的に吹いて修理部分を判り難くします。修理部分との境目は色合いをぼかして目立たなくします。マーティンなどのラッカー塗装の楽器の部分塗装はとにかく時間が掛かります。。。

塗装が乾いて破談部分の段差や色合いが自然に馴染んだ感じになったら、後は磨いて艶を出すだけですね。今回はバック面に小傷が多かったものですから、全体的に磨いて傷取りも行いました。因みに最終仕上げの磨き作業の事を水研磨(みずけんま)や水研(すいけん)等と呼びます。
因みに滅茶苦茶余談ですが、私が昔勤めていたメーカーでは「水研・バフ(バッフィング)」と一括りで塗装仕上げの部署になってました。夏場は本当にきつい仕事なんですね・・・特にバフは。
作業自体が全身運動の為、暑さで意識が飛びそうになります。しくじったら大型バッフィングマシーンに巻き込まれて大怪我する事もあるので、神経を常に尖らせておく必要があります。
とまあ余談は置いといて、

こんな感じで、バインディング剥がれの修理は終了ですね。破損してからすぐに修理に取り掛かったおかげで破損部分が判らないレベルまで修復出来ました。
こんな感じで本日の所はここまで!