Q1
ラッカー塗装(今回の説明は全てニトロセルロースラッカーとします)ポリエステル塗装(今回はポリ「エステル」に絞ってお話します)って音が違うのですか?
A1
違います。正確には塗装膜の厚さにより音色が変わります。
Q2
ラッカー塗装とポリエステル塗装の違いを教えて下さい。
A2
難しい分子レベルや塗装工程の事は省略いたしますが(硝化綿やバインダー関連など)、乾燥後の硬度が違います。
一般的に「ポリエステルの方が硬く、傷には強いが、衝撃には脆い」、「ラッカーの方が柔らかく、傷には弱いが、衝撃には多少粘りが有る」傾向があります。
仕上がり傾向としては、ラッカークリアの方が完成直後は艶が美しいと感じますが、劣化が早い為、長期的な美観を保つには細心の注意が必要です。また、ポリエステルクリアは比較的長く美観を保つことが出来ますが、経年後、塗料の調合具合や外部刺激によって、表面がうっすら黄色やグリーンに変色する事があります。
Q3
ラッカー塗装の楽器はお手入れが大変と言われる事がありますがなぜですか?
A3
ラッカー塗料はその素材の特性において、外部からの刺激に非常に敏感です。その為、お手入れの為のクリーニング剤などに反応して溶けてしまったり、ギタースタンドなどに直で置くと、スタンドのゴムと反応して溶けてしまう事が多々あります。
それを避ける為には、クリーニング剤にはラッカー塗装にも使える物をお使い頂くと共に、ギタースタンドの楽器が接する部分には楽器磨き用のクロス(ラッカーにも使えると明記してあるもの)や、ネルの布などを掛けて、ゴムが直接塗装に触れない様にして下さい。
又、よく起こる事としては、夏場にプリントTシャツ一枚で楽器を弾いていると、そのTシャツのプリントインクがラッカー塗装を溶かす事もあります。その辺りはお気を付け下さい。
Q4
塗装した楽器としない楽器はどちらが音がいいの?
A4
これは楽器に限らずですが、木工品における塗装の目的は、「製作物に美観を与える事」と、「外部の湿気から木を守る」と言う二つの意味合いがあります。
「良い音」と言う事を定義・説明するのは難しいですが、楽器の塗装と音響に関して研究が盛んな世界に居るヴァイオリン製作者の多くは、塗装しない(又はする前)楽器の方が「音が良い」と考えている様です。私もこの考えにはほぼ同意で、実際に無塗装のギターを弾くと、オープンに木部が鳴る事を感じられます。しかし、音(鳴り)の調整目的で塗装される事もあるので、楽器にとって一概に塗装がいけない訳ではありません。(但し塗装その物で楽器全体の音質の改善は出来ません。あくまで引き算の調整です)
前出の部分でもう一点。外部の湿気に晒され続ける楽器の場合ですが、塗装膜で保護してあげないと、外部から汗(人脂)などを吸って木が痛んでしまう事や、湿気でコンディションがキープできない事を避ける・・保護目的の為に最低限度の塗装を施して置く必要性があります。
そこから導き出される答えとして、「音の事を考えると、塗装膜は最低限に薄く」、「長期に渡る美観を優先すると、経年後の塗装膜の痩せ・磨きシロを考慮して、塗装膜は厚くする必要がある」と考えられます。
Q5
(楽器で言う所の)オイルフィニッシュって何ですか?
A5
「乾性油」と呼ばれる、「乾くと凝固する油」を木部に刷り込んで仕上げる手法の事を言います。このフィニッシュの場合、オイルが木部の表層以下に染み込んで硬化の後、塗装膜(厳密には違う)を形成する為、仕上がりの風合いが無塗装に近くなります。
しかし、木部の表面が無塗装に近い仕上げの為、手垢等の汚れが付き易く、一旦汚れてしまうと回復させる事は困難です。美観を長く保ちたい方には不向きな仕上げともいえます。
もう一点、無塗装に近いフィニッシュの為、湿気には若干弱いとお考え下さい。
稀に、お手入れ用のレモンオイルやオレンジオイルでオイルフィニッシュにセルフで挑戦しようと言う方がいらっしゃいますが、絶対にお止め下さい。
あれらは「不乾性油」と言いまして、乾燥も凝固もしない物です。その為、一旦は木に染み込んだ様に見えた油分がジワジワと染み出して来たりします。又、木部に修理が必要になった場合、染み込んだ油が接着剤を弾く為、修理が出来なくなる恐れが有ったり、塗料も弾いてしまうのでリフィニッシュも不可能になる事が多いのです。
オイルフィニッシュには必ず「乾性油」をお使い下さい。
Q6
エイジドフィニッシュのやり方を教えて下さい。
A6
私は個人的に「新品なのにエイジドフィニッシュ」が好きではありませんので、ヴィンテージ関連のリペアに必要な手法(部分塗装後のクラック合わせなど)しか使いません。手法等内容は秘密にさせて下さい。
これは極めて個人的な考えですが、良く使い込まれた楽器の美しさと、エイジドフィニッシュの美しさは似て非なる物だと思っております。
Q7
個人でブリッジなどの金属部分に塗装って出来ますか?市販品に無い色にしたいのですが・・・
A7
塗るだけなら・・・・・市販品の様な塗装膜強度を出すのは個人では不可能です。どうしても挑戦したい場合は、車の修理屋さんなどで、焼付け塗装を施して貰うのが良いのではないかと思います。さらにメッキ仕上げを行いたい場合はもっと大変です。
プラモデルが趣味の方で、メタルキットが特に好きな方ですともしかすると可能かもしれません。
私は昔メッキ屋さんでアルバイトしていた事がありますが、その経験から言いますと、綺麗に着色〜メッキを行うにはかなり特殊な塗料と設備が必要になります。
因みに東急ハンズ等で簡易的な液体メッキ塗料セットなるものが売られていたりしますが、あまり綺麗にメッキを施す事は出来ません(実体験です)。
もし個人で上記成功された方がいらっしゃいましたら、ご一報下頂けると幸いです。
Q8
塗装に傷が付いたので直したいのですが。。。。。
A8
浅い傷であれば、#1000〜2000位の耐水ペーパーで傷の周辺をなだらか且つ、広く研磨してコンパウンドで磨くと消せる事もあります。しかし下手を打つと修正不可能になる事がありますのでお気をつけ下さい。
この辺りは傷の深さ次第ですので、プロのリペアマンに任せた方が良いでしょう。
Q9
塗装が割れてしまったのですが、自分で直せますか?
A9
ご自分での修復は難しいと思われます。プロにお任せ下さい。大抵の場合修復可能です。但し、ブランドデカール部分の欠損や、グラフィックペイント部分などを修復する場合は、大変時間がかかる事もあります。
といったような所で力尽きましたので本日はここまで!