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2014年05月31日

グレコサンダーバードボディー割れ修理と膠(にかわ)の話

今回の記事はグレコのサンダーバードの修理について面白い症状の物だったので記事にして残しておきます。

東京でガレージノイズバンドをやっているO氏より、「メインで使ってるベースのボディーが割れてるかもしんないから、ちょっとメンテナンスがてら見て」ってて言う連絡が入ったのが始まり。

サンダーバードとかファイヤーバードって、材質的にも構造的にも、確かにボディーの接ぎの部分が割れやすいよなー等とはおもうのですが。
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実機を見たらこれこの通り。スタッドとブリッジ、メタルエスカッションとピックアップとで、辛うじて繋がっている状態でした。
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当然外すとバラバラに。

別角度から
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まー見事に割れ(と言うか接ぎの部分の剥がれ)てますね。

取り敢えず養生をして接着準備に入ります。
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これ、木部がダメージによって割れたのではなく、生産当時に使われた接着剤の劣化が原因ではと疑われる症状です。

と言うのも破断面を触ってみると接着剤が全面泡立ったような状態になっており、明らかな接着層の劣化が疑われる状態でした。生産当時に使われた接着剤は匂い等から判断して、恐らく膠系の物が使われており、又、ホルマリンが添加されている物とみられ、その添加量が多すぎた為か、経年変化で接着層が破壊されてしまったと推測できます。

そも、膠(にかわ)とは何か?
動物の臓物や魚の皮など、所謂動物性たんぱく質を煮出して作る、伝統的な接着剤の一つで、5000年前にはすでに使用された例が有る事を示す壁画などの資料が残っているそうで、古くはエジプトの壁画などにも使用されている事で有名です。
またこれらの発展的な製品として身近な物では、、、精製された物が食品用のゼラチンとして使用されている為、一般的なゼリーなどの食品として口に入っている物でも有ります。その他ではオブラートなんかも有名な使用例ですね。

では、膠にホルマリンをなぜ添加するのかと言う話ですが、一般的な膠として売られている三千本等の膠製品は固形物として販売されています。

これを使用の為に水やお湯で溶いた膠溶液はたんぱく質のゲル状に濃度調整をしてから使用するのですが、この材質上、細菌が繁殖しやすい培養基のような物ですので、空気中や溶いた水、そも自己が持っている細菌により、腐敗及び品質及び接着強度が変質しやすいのが特徴となり、これが膠が使いにくいと言われる所以です。これを避ける為に、石炭酸などの殺菌剤、防腐剤等を僅かに膠溶液に添加する事があり、その防腐添加材が楽器業界では「ホルマリン」が良く使用されるという訳です。また、接着作業以降でも、木材が湿気を発したり、接着層が湿気を被って、膠が緩んだ際の腐敗を防ぐ意味もあります。

しかしながらホルマリンは水溶性の添加剤でしか有りませんので、自身には接着力を高める能力はなく、あくまで溶液使用中の接着剤の変質を防ぐ一つの成分でしか有りません。つまり添加しすぎると、薄めた接着剤を使っているのと同じ事になる訳ですね。またホルマリンその物が変質した際に、接着層を破壊してしまうという側面もあるようです。

今回のボディー割れの原因はこう言った事が原因の一つで接着面が緩んだ所に何らかの衝撃が加わり、接着層が剥離してしまったのではないかと推測できます。

楽器の世界は膠が高級で、それ以外は駄目だと仰られる方もいらっしゃいますが、使用用途と使い方次第かなと私は考えておりますが、例えば将来的に修理する必要が生じやすいアコースティック系楽器のネックジョイント/表板/ブリッジ周辺部分は水で溶ける膠を使うべきですし、今回の例では、将来的にも絶対に割れて欲しくない個所の修理ですから、勿論エマルジョン系の接着剤を使用すべきとの結論です。

昔、お世話になった方で、オーストリアのクラシックギターの製作家の方とお話しさせて頂いた事が有るのですが、その方は「接着剤には膠を使うんだけれども、所謂三千本と言った非精製製品ではなく、食品用の精製ゼラチンを使うのだ。また防腐剤にはホルマリンではなく石炭酸を使うし、濃度と鮮度には非常に気を使う」と仰られていました。これが一つの製作家の考え方。

私個人は、基本的に後の修理のし易さと、剥がれて欲しくない部位と音色の兼ね合いを見た上、バランスを取ることが重要であると言う結論の為、この部位には絶対コレという使い方はしない感じです。これも一つの考え方。

また、懇意にさせて頂いているとあるリペアマンの方には、絶対に膠は使わない。と言いきる方もおられます。やっぱりこれも一つの考え方。

それぞれ製作家の考え方は様々ですが、ヴァイオリン属やクラシック/フォークギター属、ウクレレ属といった軽量且つ、各部材を接着で構成する部位の多い物、弦振動を音色に変換する響板が薄い物は、音色の何パーセントかを占めるファクターとして、接着材単体の硬度も寄与していると考えられます。

結果/現象に対し、何をどう自分の考えの主軸に置くかと言ったところでしょうか。

とまあ接着剤の話を長々としても仕方ありませんので実際の接着作業へ。

上記の考えの中から選択肢として、今後もう剥がれて欲しくない部位の修理ですので、今回はフランクリン社から発売されているタイトボンド(エマルジョン系)を使用します。
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楽器修理製作の世界や家具の世界ではお馴染みの接着剤ですね。
これは一般的に日本で有名な白い木工用ボンドに比べて、硬化後の硬度が高く、ソリッドな伝達効率を持つと考えられます。もし両方お持ちの方が居れば、割りばしの表面にでも双方塗ってみて下さい。乾いた後、ガラスコップをその割りばしで叩いてみたら各々音色の違いが良く解ります。良い/悪いではないですが。

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これを接着面を整えてから両面に塗布し、接着します。。。
が、接着中の画像を撮り忘れてしまいました。滅多に見れない様な画でしたが勿体ない話。。

で、
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接着のち割れた部分を、面相筆にて部分着色し、シーラーとラッカークリアを盛り付けて・・・

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表面研磨。

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組み込んだら完成です。

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今回は部分塗装に留まりましたが、破断部分はそれほど違和感なく、よく見たら解る程度にまで修復できました。

こんな所で修理と調整完了です。

で、オーナーのO氏はNOISE A GO GO'Sと言うバンドをやっており、ノイズ&ハードコアパンクなバンドの方です。

O様 ご依頼ありがとうございました。またのご愛顧をお待ちしております。
posted by IRP Products at 21:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 楽器リペア関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする